さっちゃんへ、あるいは春へのいのり

(朗読)

さっちゃんへ、あるいは春へのいのり

・朗読ファイルは、元ファイルにある序文が入ったままになっています。すぐ終わります。

五〇の和歌

[一]
さっちゃんの幸子と申せば幸子とて
されど僕にはさっちゃんなりけり

[二]
指に折り千羽に祈りて手術日の
花びらひとひら舞い落ちるかも

[三]
燃え尽きた灰化の鳥のかたちして
諦めることなき僕のつばさよ

[四]
ふるさとの忘れがたみは末黒野の
別れ色したなみだなるかな

[五]
どんなにも、どんなにどんなに穢れても
あたいは生きてく今宵一夜を

[六]
すまし顔すべて隠して済まします
窓辺に浮かべるきみが遠いよ

[七]
千葉寺に詩(うた)いし中也のなごりさえ
睦(むつ)みし坊やと時のかなたへ

[八]
アクトゥルスいまなお変わらぬまたたきよ
訊ねざかりの僕やいずこへ

[九]
粉雪も舞い散る花と見える頃
歌いませんかあの日みたいに

[十]
ふるさとに友だちいない僕だけど
庭に咲く花ぼくを忘れず

[一一]
堅香子(かたかご)の揺れんばかりの夢野原
誰をか待ってた君のしぐさよ

[一二]
ゆく鳥はかえすつばさのふるさとへ
わたしひとりは島を去りゆく

[一三]
ごめんなさいもう真っ黒です手遅れです
ひっしに鼓動を確かめています

[一四]
駅もいま別れぎわだね僕たちの
恋は消えゆく時のしらべを

[一五]
コーヒーのおかわり自由のミルクには
甘さときめく恋のかけらも

[一六]
通せんぼしかけてやめたその肩を
いだきとめたい君が好きです

[一七]
火盛(ほざかり)の誰がため盛る河原けに
子らははしゃぐよなおも盛れよ

[一八]
飼い主はてくてくてくてく星の歌
唱(とな)えて高きポチの銀河よ

[一九]
僕たちは色とりどりの夢を唄う
街よ夜更けよ消すな灯(ともし)を

[二〇]
ふとわれに伝えておくれよやさしさを
はこべらはこべよ春の気配を

[二一]
君とふたり見つめあったり揺られたり
どこまでゆくかな恋の夜汽車よ

[二二]
夕ひばり穢れることなきたましいよ
だれをか見つめて鳴いているのか

[二三]
おかしいな心がぽっかり割れちゃった
かけら見つけて泣いたりしてます

[二四]
ありがとうあなたのことばを胸に秘め
歩いてゆきますわたしひとりで

[二五]
いろんなときこころのなかにひそむもの
つめたき瞳もわたしなのかな

[二六]
恋人よ怒らないとて怒ってた
何でか知らぬが不思議なことです

[二七]
小さき指舐めてみたとき訊ねたね
うみやなみだのパパなのでちかと

[二八]
明け来ればまたたき溶かすや白鳥の
眠たげにして花や色めく

[二九]
あったかの春よ僕らも芽吹くとき
お前よ奏でる風のちからを

[三〇]
舞いかけの雪はかなくて溶ける頃
Primavera(プリマヴェッラ)の声がしますね

[三一]
なかなおりするや夜更けとささやきと
受話器のかなた君は息づく

[三二]
小鳥来るあの子の窓まで回り道
学校ではもう蛍のひかりか

[三三]
春ひとつ憧れひとつ夢ひとつ
掴もうとしたら木漏れ日消えてた

[三四]
ぬくぬくとあんな抱(いだ)いた肌だのに
あんた遠くてふとんさみしい

[三五]
目覚めれば星は降りますあなたより
ひとつふとんのおもさ遠のく

[三六]
よきことの縺れてむにむにしたとても
見つめあってた僕らばかだね

[三七]
幼くて瞳に横たうみず色は
何見て笑うの春のみず色

[三八]
朝こそは心地よさげなおはようの
律するものこそ天にまさるを

[三九]
すみれにもやる気ある時あらぬ時
色とりどりの雨のしずくよ

[四〇]
うぐいすの鳴くや眠れとささやけば
葉を歩むものてんとう虫かな

[四一]
君を得てなんでか震えるこころです
むずかしいのも家族なのです

[四二]
あのころは友もつばさも信じてた
アルバムで笑う僕は誰だろう

[四三]
最近は涙もろくてなりません
庭にたんぽぽ咲いていますね

[四四]
今もなおあなたに告げたいことひとつ
愛していますあなたひとりを

[四五]
わたくしの血潮を高くさかつきに
満たして祈るメサイヤなるかな

[四六]
せっかちのたましいばかりの春が来て
結婚しようよ君がうち来る

[四七]
しょげてまた笑ってみせた君だけど
あした遊ぼうおやすみ坊やよ

[四八]
銀河には星のしずくの定めさえ
こころざしさえあると聞きます

[四九]
のどごしに奄美のあまみ溶ける頃
思い浮かべる島の歌かな

[五〇]
ふるさとは春けき色したすなっぷの
君と見たいな僕のアルバム

(二〇〇九年六月一二日)

2009/12/02

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