[一]
恋をして走り出してたわたくしの
天までとどけ願いごころよ
[二]
降りしきる雨のゆうべは濡れ髪(かみ)の
傘よりふかくあなた欲しくて
[三]
かなしみを紛らわせるほどノートには
めくるたびごとあなたばかりを
[四]
幾たびもつづりて消してはまたつづり
花の盛りは時と過ぎゆく
[五]
打ち明ける勇気をもらった花の名は
アイリスの花ふみよ届けよ
[六]
ふたりして今日はじめてのカフェだのに
夢に描いたデジャヴューなるかな
[七]
つなぐ手の卯浪とふれては靴あとの
永遠(とわ)とばかりに口づけしましょう
[八]
部屋の灯(ひ)の鼓動ばかりはつのる夜(よ)の
ボタン一つを君に託すよ
[九]
ねえあんた離さないでねこれからも
あたいあんたのそばに眠るわ
[十]
諍いはささいなことの起こりとて
きびすかえせぬ橋のへだてよ
[十一]
初夏の駆け抜けるみたいな風を追い
つまづくわたくし君とはぐれて
[十二]
日は暮れていそいそ帰る磯鳥を
見つめて泣いてたあたいなるかな
[十三]
わたしひとりでまたなみだする夕暮れの
赤くて赤くてそれな血の色
[十四]
恋をしてゆうべひとみの赤かがち
遊びなかばにこぼれゆくかな
[十五]
あなたの手ちょっと触れたときのぬくもりが
疼くみたいな虫の鳴きごえ
[十六]
ふるき御代のパヴァーヌみたいな悲しみの
なみだばかりはモダンなのです
[十七]
ひとっつふたっつ夢とか希望とか消されゆく
夜更けの窓辺をあたいは見ている
[十八]
ねえ幸せってどうやって得るものなのか
お聞かせくださいフォーマルハウトよ
[十九]
ぬばたまのつのるまかせの星あかり
どれほど小さなランプが欲しくて
[二十]
灯火を一つ灯(とも)せばとうとうと
問うこともなく夜は更けゆく
[二十一]
はきはきとただはきはきとしてたけど
こっそり飲んでた眠りぐすりを
[二十二]
夢に抱くあなたの肩の余韻さえ
忘れなければ立てぬそほどよ
[二十三]
たましいのゆらゆれながらもろうそくの
ともし絶やすな夢の守りよ
[二十四]
かくてなお一歩たびごととぼとぼと
とぼとぼ灯るいのちなのです
[二十五]
あたいねえもうなにがいのちか分からない
分からぬままの朝の不治山
[二十六]
あかつきのたなびく紅も去り雲(くも)の
あなたのかげも覚めし夢かも
[二十七]
さようならお別れしたくて見はらせば
震えるひざのいのち惜しむよ
[二十八]
はっとしてお顔あげたら覗いてた
まだきひかりがだらしないぞと
[二十九]
生きるもの窓をひらけば朝鳥の
あなたにさよなら風に誓いを……
[三十]
木漏れ日のちょうだいしたいなぬくもりを
軽やかにゆこう春はまた来ます
2010/2/14