さよならの秋 (短歌30首)

(朗読)

さよならの秋

[一]
恋をして走り出してたわたくしの
天までとどけ願いごころよ

[二]
降りしきる雨のゆうべは濡れ髪(かみ)の
傘よりふかくあなた欲しくて

[三]
かなしみを紛らわせるほどノートには
めくるたびごとあなたばかりを

[四]
幾たびもつづりて消してはまたつづり
花の盛りは時と過ぎゆく

[五]
打ち明ける勇気をもらった花の名は
アイリスの花ふみよ届けよ

[六]
ふたりして今日はじめてのカフェだのに
夢に描いたデジャヴューなるかな

[七]
つなぐ手の卯浪とふれては靴あとの
永遠(とわ)とばかりに口づけしましょう

[八]
部屋の灯(ひ)の鼓動ばかりはつのる夜(よ)の
ボタン一つを君に託すよ

[九]
ねえあんた離さないでねこれからも
あたいあんたのそばに眠るわ

[十]
諍いはささいなことの起こりとて
きびすかえせぬ橋のへだてよ

[十一]
初夏の駆け抜けるみたいな風を追い
つまづくわたくし君とはぐれて

[十二]
日は暮れていそいそ帰る磯鳥を
見つめて泣いてたあたいなるかな

[十三]
わたしひとりでまたなみだする夕暮れの
赤くて赤くてそれな血の色

[十四]
恋をしてゆうべひとみの赤かがち
遊びなかばにこぼれゆくかな

[十五]
あなたの手ちょっと触れたときのぬくもりが
疼くみたいな虫の鳴きごえ

[十六]
ふるき御代のパヴァーヌみたいな悲しみの
なみだばかりはモダンなのです

[十七]
ひとっつふたっつ夢とか希望とか消されゆく
夜更けの窓辺をあたいは見ている

[十八]
ねえ幸せってどうやって得るものなのか
お聞かせくださいフォーマルハウトよ

[十九]
ぬばたまのつのるまかせの星あかり
どれほど小さなランプが欲しくて

[二十]
灯火を一つ灯(とも)せばとうとうと
問うこともなく夜は更けゆく

[二十一]
はきはきとただはきはきとしてたけど
こっそり飲んでた眠りぐすりを

[二十二]
夢に抱くあなたの肩の余韻さえ
忘れなければ立てぬそほどよ

[二十三]
たましいのゆらゆれながらもろうそくの
ともし絶やすな夢の守りよ

[二十四]
かくてなお一歩たびごととぼとぼと
とぼとぼ灯るいのちなのです

[二十五]
あたいねえもうなにがいのちか分からない
分からぬままの朝の不治山

[二十六]
あかつきのたなびく紅も去り雲(くも)の
あなたのかげも覚めし夢かも

[二十七]
さようならお別れしたくて見はらせば
震えるひざのいのち惜しむよ

[二十八]
はっとしてお顔あげたら覗いてた
まだきひかりがだらしないぞと

[二十九]
生きるもの窓をひらけば朝鳥の
あなたにさよなら風に誓いを……

[三十]
木漏れ日のちょうだいしたいなぬくもりを
軽やかにゆこう春はまた来ます

2010/2/14

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