[一]
眠ろうとしつつ寝られぬ有明の
碧(あお)の時計を鐘打つは誰
(「しつつ」⇒「しては」とするか)
[二]
死にとうない震える声を聞く人の
待てぬ夜明けの脈を見取るよ
[三]
あの人もこの人さえもすり落ちて
ひとり歩きの墓に降る雪
[四]
春風(はるかぜ)をあおりて雲のたなびけば
吾子を眺めの二羽のからすよ
[五]
叱られて染める頬さえほおずきの
ふくれっつらした迷子なるかな
[六]
くつわむし探しさなかにお化け来て
泣きだす僕を母はいだくよ
[七]
ひとだまを追っ掛けまわした夕まぐれ
肝っ玉した僕やいずこへ
[八]
ああ僕よ丸太とばかりに寝転んだ
あの日あの時友のなみだよ
[九]
秘密基地丸太の渡しとみきの隙
久しきふるさと宅地ばかりを
[十]
いざ君よ学び尽くせぬ古歌の
いまに紐解く結びめなるかな
[十一]
仰ぎ見る虫鳴き夜(よる)の歌心
奏での妙さえ知らぬ月影
[十二]
夕暮れは僕らのこころの焼け野原
血潮も紅きバラードなるかな
[十三]
僕らよりとんぼの羽より軽やかに
明星(みょうじょう)さえぎる何の雲かも
[十四]
わたつみのみやこも知らぬ海原(うなはら)の
漁(いさ)りも待つや宵のカンデラ
[十五]
はしょってた僕のいのちのつまずきを
膝つき見るや秋の三日月
[十六]
はじけてたやんちゃごころの鳳仙花
なくさないでね勤め間に間に
[十七]
桜貝みつけた波間のよろこびと
パラソルみたいな僕の恋人
[十八]
けったいなほら吹きどもをけちらして
波止場へいでて君をいだこう
[十九]
すがたなき羽ばたき鳥のさえずりを
恋せし思い君にとどけよ
[二十]
おやすみなさいあなたのしあわせ願うのは
今でも君を愛しているから
[二十一]
焦がれあう銀河二人を分かつなら
幾億光年駈ける願いよ
[二十二]
あっけらかん散り葉あつめと焚き火して
君にさよならわかれの煙よ
[二十三]
湯にあって指さきしずくの哀しみを
こらえるくらいのなんの歌かも
[二十四]
はらはらとなみだの色さえ濁るのは
干からびちまったこころなるかな
[二十五]
僕ねえ、これでも懸命に生きてきた
せめて矜恃を酒に託そう
[二十六]
もう消して、誰にも言えないひとことを
鏡をきみにそっとつぶやく
[二十七]
窓がらすすかして銀のともしびを
ぽつりと揺れる夜長なるかな
[二十八]
ぱぱぱぱぱなみだの淵からモーツァルト
ほほえむみたいなallegrettoよ
[二十九]
あまからの夢になくした味なのに
見つけられ得ぬ朝のせわしさ
[三十]
あふれてた清水欲しくてがぶ飲みの
たましいくらいを永遠にかかげよ
2010/2/14