宵の喫茶店にて

(朗読)

「宵の喫茶店にて」(さっちゃんへより)

窓辺より眺めを宵の街あかり
誰の心に赤き信号

ほほえみさえ遠く窓辺のあの頃を
浮かべてもなお夜は更けゆく

空っぽの名残とかおるコーヒーの
淋しさくらいを何の歌かも(歌声)

求めてはひとりぼっちの細道を
どこ行くあてもさ迷い子猫よ

暮鐘(くれがね)の時代と僕らを押し流す
新たな服着たあの人この人

夕凪の誰(たれ)待ちごろを渚鳥
波音ばかりか染みる三日月

誰(た)が道の赤と青とを絶え間なく
繰り返しつつ冬の足なみ

触れてまた冷たさくらいを人心
春日眺めのどんな闇かも

もういまはあなたに逢っても嘘わらい
精一杯の僕のやさしさ

青空の風の間に間に粉雪を
降らせ色して春はまだかな

幸せを知らずのはての恋をして
震え逃れのきびす返すよ

朝鳥のこんがり焼いたトーストを
庭に眺めも今日の始まり

せわしなくとぼとぼ人(びと)を追い越して
途絶えもせずのヘッドライトよ

握ろうとしかけて止めた君の手を
憧れ色して宵のためいき

ああ皆さんわたくし最後の晴舞台
老いのピエロの笑いなみだよ

腕枕おもおもしていた君だけど
消えてしまいそうで眺めているのです

枯れ残る枝打つものは四十雀(しじゅうから)
遠くどこかに春を隠して

畦焼のこげ間の間にもほとけのざ
誰をか誘うなんの鼻歌

夕れさば散歩の犬を引かれ人
どこか遠くに鵙(もず)のなき声

灰化したちまちま土手のせせらぎは
春待草のそっときき耳

枯れ草を雨うちゆだねの人形に
ほほ笑み返して立ち尽くす僕

深雪(みゆき)さえほのおの影を囲炉裏人(いろりびと)
どこか遠くのまちに我が子よ

思うように生きられなくって侘びしさの
つのるに任せて泣いていました
今はそれでいい、朝はまた来る

トロイヤのいにしえ人の栄華さえ
ひと夜のかぎり夢やまぼろし

太占(ふとまに)もやってみたいなあなたへの
想いあふれて今日の占い

・朗読は「今日も」になっている。後から改訂。

道ならぬ道ゆくひとを手にかけて
千万人もの石のつぶてよ

ぽつんぽつん灯し連ねは遙かまで
ひと筋道を帰る吾が子よ

朝焼けを過ごしてはまた焼酎の
かざすグラスに何の悲しみ

もう足を踏めずにしゃがんだ痛みさえ
路傍の石を知る人もなし

ぬばたまの闇負う鳥を八咫烏
静かに眠れよ遠き漁り火

2010/2/14-17

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