短歌 『etude 5』 朗読

(朗読)

『 etude 5 』

ふっくらと
  ふくらまし粉のやさしさで
 窯(かま)に色づくバターロールよ

降りしきる双子の夜のささやきと
あこがれみたいな君のくちびる

あなたさえ笑ってくれたら道化師の
身振りにも意味はあるのかしらと

茶摘みまで溶かし込みます若草の
ウォッカベースのさわやかさあげたい

[あるいは「さわやかさください」]

ただ君のほほえみ見たくてしわがれの
有り明け空を見あげ鴉(がらす)よ

  「三つのおもかげ」
本当はね話し相手を求めてた
 放課後ふれるからの机を

  手すりから乗り越えたいような溢れても
 ひそかに戻るそっと教室

[久しぶりに聞いて思うには、今なら即興の戯れに、
      手すり触れて こわくてもどる 教室の
       はしゃぎ声する ねむるふりして
などいくらでも浮かんできそうなところを、つたなくものしたる稚拙さに、あきれては今もまた演繹された未来には、乏しき落書きへと落ちぶれるものかと、ちょっと憂鬱になるくらいのものです。つまりは当時はなかなかの習作かと信じていたものが、陳腐な落書きに過ぎなかった時のむなしさ。そのむなしさを、わたしは彼らの落書きにも、常に感じるならば……ようするにそれらもまた、これのようにつたない落書きには過ぎないのでしょう。そうしてそのことは、次の段階にある人でなければ、底辺の知性や情緒で推し量っても、どうしてもつかみ取ることは出来ないのでした。そこに精進のよろこびはひそみ、俗物根性もまた、どっぷりと横たわっているのです。(2016/02/01)]

  ぬばたまの染め塗りされたエピソード
   振り向くたびに恐くなります

    あの日のわたくし……

夕べまでひとつふたつのほたる火の
 ともしも尽きて澤(さわ)のせせらぎ

どっさりと霜を尽くしたみずうみに
朽ち木の果ててすさぶ夜嵐

ぬばたまの
  磨き抜かれた闇でした
 それなのにみんなは
   黒とばかり笑うのでした

穢れなく冬の天使のみなし子よ
 染まることなき花の色香に

聖俗の奪い合いますほほえみの
 鏡にうつす影のいつわり

朽ちかけの小枝にひそむみの虫を
おびやかします風のいたずら

精一杯、想い心をにじられて
いじけていました冬のだんご虫

まもなくです
 わたくしのたましいは損なわれ
  いびつなわくら葉に眠るでしょう

砂の城さらいゆきます波ぎわの
はしゃぎも尽きて浮かぶ靴紐

あなたあなたあなたのことが大好きで
  駆け出したいけど、ねえ……いいよね?

滅びゆく時代の果の約束は
 あの日交わした君のくちづけ

おやすみなさい
  また、ちょっと飲みました
    お叱り受けます
  わたし世迷いごと

友もなく羽に疲れた浜鳥の
夕べになずむ哀しみの唄

あんたらをかたきと思うそれだけが
いのりにも似た支えとなります

右の手のひらには小さな小さな星屑を
左の手には棕櫚の小枝を

星をたよりに向かい奉(まつ)ればおさな子の
飼い葉満たして天(あま)つひかりよ

見あげれば天の河原の十字架を
掲げて唄うオルフェオの竪

いつしかきっと
  バラの花咲くあの庭で
 巡り逢いたい君の情熱

どれほどのこころの結いをもてあそび
もつれさせます冬の小悪魔

ほほえみながら
 ささやくピエロのお人形
  (ああ、生きていることは
  まるで、地獄みたいです……)
 なみだを流して
  ほほえむ人形

北へ北へ逃れゆきます鈍行の
  寄り添いながら渡る雁が音

我もなほ
  旅ゆくものかあだし野の
 夕べに細る煙ひと筋

握りしめます時の夜汽車のチケットを
 あかりも果てまもなく終着駅

閉ざされた
  鏡に睡るあの人の
 想いください
   今はそれだけ……

桃の実をお尋ねしたいなふるさとの
古きやしろを守る仙人

廊下にはセロハンテープの張り紙を
してますあなたときどき凛々しい

ショーウィンドウ映し出します赤鼻の
トナカイくらいが僕の配役

だあれもいないかくれんぼして忘られて
ママに抱きつく肌のぬくもり

精霊よ穢れた秋のたましいを
  委ねればきっと
   ……あなたもまみれる

   それな想いもひとり芝居か
     ……酔いにまどろむ

まもなくきっと
  言葉もなくて立ち尽くす
 案山子にくべる藁(わら)のかがり火

    十字のひとは
     ……黙して語らず

もう少しだけ想いごころをくださいな
  そうしたら素敵な唄を贈ろう

    ……答えてくれない君が好きです

雨の降るような
  去り行くような褐色の
 しののめの雲を眺めていました

鄙びてたこころの結(ゆ)いの静けさを
慰めとして唄うみのむし

君を願うわたしごころはみのむしの
精一杯のささやきに似て……

君が好きやき
  お砂糖くらいじゃ足りなくて
 みりんたっぷり恋のゆくえよ

答えてくれないの?
  プチプチしてた携帯の
 さみしさ溢れて写メにキスして

ぼっくりの木の実の松をかさかさと
拾い集めて子らの靴あと

おでんよりお鍋の君がすき焼きの
  割り下みたいな僕の恋心

みつばちのハッチとマーヤはキスをして
お里のたよりもなくてハネムーン

牧師さんいのりながらもへど吐いた
驚きながら里の marriage

雪あかりうれしがってたクリスマス
シャルドネに聞くあの日のたくらみ

知ってます?
 冬のいのちのときめきを
  あなたにあげたい
 ただあなただけに……

アルバムをめくりますうち大人びた
 せりふも吐きますむすめ初恋

ふともものやわらかさばかり愛してた
ぬくもり遠くあなたいずこへ……

早春賦
 つくしの顔のやわらかさ
  わらべは唄う
 七色えんぴつ

コワレカケノユガンダハグルマキシミシテ
 ソレデモイキテル、キノウ、キヨウ、アシタ

別れてはにじんだ眼鏡の冬景色
 交差点には行き交う人々

朽ちかけの夕べのばらの唄ごころ
悟りもなくてひとひら散りゆく

たとえば夕べ
  木守(こもり)の柿の朽ちたなら
 なぐさめみたいなみなだひと粒

ショートサーキット
 追い掛け続けた影法師
  いますり抜ける父の横顔

時空針のゆらぎに消える祈りさえ
 忘れたくない夢のおわりに

星砂の欠けらを生きる僕たちの
 たとえばわずか十億光年

 振り仰ぐ悟性の影ももどかしく
  過ぎ去りしもの時の素粒子

  テキストだけが淀みなく宇宙(そら)を流れゆく
   あらゆるものは虚言定数

塵や芥のこころならばと怯えてた
 それな想いも細るかがり火

自在を得てもうみなさまのこころさえ
   分からなくなりました
  さよならただあなただけが……

とおりゃんせ、迷い子猫のセレナーデ
ここはどこぞの細道なるかな

握りしめた脈を眺めて不思議がる
生きゆくいのち消えゆくいのちよ

青空のどこまで高く突き抜ける
 とんぼうどものさみしさくらいは

堕天使の歪みごころをもてあそぶ
  メフィストフェレス老いの哀しみ

  質問一
前の唄の真意をあますことなく伝えよ

  質問二
学校の先生が韜晦するのは
子らがかわいいから?
それとも……

  質問三
質問二に続く言葉を選べ
①己がたましいの矮小がゆえ
②保身第一をモットーとするがゆえ
③愚物一身真意を悟り得ず
④教育の本意を知らない者どもよ
⑤例えばそれは坊やだからさ
⑥老いたるわたくし……闇にいじける

  質問四
次の結末を述べよ
    ざれ言に消されゆきます真心を
     なだめもせずに指に書く夜

          (おわり)

2012/1/8

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