『長月の歌』

(朗読)

長月の歌

 2014年、『八代集』の読破と『はじめての八代集』のコンテンツ作成を行う。全体に創作は少ないが、それにあわせてか、八月後半から九月にかけて、急に和歌が集中的に作られ、その後消沈する。よって、七月までは時系列的に和歌を掲載し、八月以降のものは、「長月の歌」としてまとめ、この年の和歌集の名称もまた、「長月の歌」とする。

睦月

新年

 夕べとなにも変わらない朝日を、鳥たちのあいさつばかりあらたまの、気配に満ちてよろこびに、包まれるような錯覚は、恐らくは情緒におぼれたがるわたしたちの、つたない落書きのようなものには違いないけれど……

 とにもかくにも夜が明けた
   とにもかくにもあらたしき
     宇宙定理さえあきれはて
       いねむりするよな夜が明けた

     つまりは僕らのだらしない
   けじめと怠惰の束縛の
 陰陽道に照らされて
   朝日は満ちるものだねと……

     にっこり笑って見せたなら
        あらたまります歳月を
      迎え暮らせるものならば……

    あの日の歌は家持(やかもち)の
   今も変わらぬいとなみを
  繰り返しつつ人の世の
    果てなくめぐる砂時計……

[反歌]
   あらたしき
     年のはじめの 初春の
       けふ降る雪の いやしけよごと

あさやけに 輪をえがきます
   小鳥らの つどう雲間に
     天つ橋だて

誰がために
   鐘はなります あたら夜を
 静かに守る つくよみの神

いくつかの和歌

question
  ?といふ名の
 ものがたり
    見えない糸して
   つむぎ逢うもの

満ちてまた
   いざよう波の きらめきは
 さみしかるべき 夜半の月影

銀のしらべ
   雲間の月の かがりして
 ピエロは踊る 秋の夜長を……

如月

雪の歌

雪は散ります
  あなたの知らない わたくしの
 かなたどこかへ 雪は舞い散る……

さみしくて/さに
  あのひとこえを 抱きしめて
 雪ふる夜の
    壊れかけのradio……

あわゆきの
  いのりも消えて 病床は
 ひと影もなく 今朝は静けさ……

いくつかの和歌

しまい込んで
   わたしきれない あなたへの
 手づくりチョコは ちょっとほろにが

下葉から 朽ちてゆきます コスモスの
  夢みるものは なにもなくても……

よきひとの
   よきひとながら わらわれて
 それならきっと 悪となろうか

かづらして
  寄り添うひとよ ぬばたまの
 ひとり寝る夜の 闇の深さを……

なかゆびは
  あなたのほおの ぬくもりと
 くすりゆびして 触れるくちびる

旅情 始発
  駅弁 トランプ
    洒落 真面目
   ホンネ いさかい
     みなだ ほゝえみ

こんな落書を草枕に、
  始発してみるのも一興か~もね。

せゝらぎの
 ほのかとかゞる ほたる火を
   過ぎゆく風を 君は知らずや

弥生

ぬばたまの夜

はつしぐれ
 古びた針の きざみして
  僕をせかせる 窓のつめたさ

こがねさえ
   しろがねさえも 朽ち果てゝ
 錆ゆくままに 星は消えゆく

ぬばたまの
 やさしくなでる ぬくもりに
  なぐさめられて 闇の夜のなか

さくらの頃

そよぎして
  さゝやく風の いたずらに
 ほころびるかける さくらゆうぐれ/まだかな/あしたは

[初稿につきて。結句を「夜半のさくらよ」としたるは放棄の典型なるべし。まだしも「さくらゆうぐれ」など、次歌にゆだねるべきか。さりとてまた、「さくらまだかな」にて尽きたるこそ、酒飲みの性癖をいたすべし。]

いろどりの 提灯
  いろどりの ひとだかり
 見知らずつどう さくらゆうぐれ

つきかけと
  そめいよしのは ちようちんと
 ゑみとさくらと 灯しひとかけ

卯月

さくらの面影

遊びのぼれば
  花のさかりに 埋もれて
    よろこび鳥の さえずりを聞く

あの頃は
  精一杯の 背伸びして
 さくらの枝さえ つかみ取れずに/そこねて

ふりしきる
  みかづき空は 花ざくら
    耳をすませば 子守歌して

かなしみは
  咲き散る花か こな雪か
    眺める月の 銀のしずくか

いくつかの和歌

かなしくて
  踏みつけにした あの人の
 おもかげみたいだね 夕ぐれの空

みかづきは
   空いっぱいの あきあかね
 かどわかしする 夕ぐれの唄/夕ぐれブランコ

カラフルな
   こんぺいとうした やさしさの
 いつわりみたいだ 君のささやき

人斬りの
   泣く子をあやす いつの夜に
 さみしかるべき 夜半の月かな/月かげ

[結句、『新古今』なら月影と体言止めするか]

pianissimo
  あなたの鼓動 触れたなら
 sfな こゝろときめき

Crescendo?
  con fuoco?
 あるいは accelerando?
  presto agitato、
    恋の火花よ

水無月

うつしきれない
  むじゃきな夢?
    あるいは白妙みたいな
 あこがれ? それとも
   月かげのワルツ……

なみださえ
  ほほえみとして 道化師の
 おどけたしぐさ
   今宵 サーカス

オルゴール
  マイウェイ それから砂時計
 遊んでいました トランプもして

   「狂歌」
仕事に病んで
  ぼろ切れみたいな 秋の田の
 そほどは折れて ちょうちんのした

あなたの夢を
  あきらめないで 唄うのは
 ほら吹きなのか それともわたしか

星のかなたに
  約束の地はあるのかと
 だまされたくて
    あおぎ見るかも……

忘れかけた
  地上波からの 呼びかけを
 懐かしく聞く それもつかの間……

ただ君の
  ことばかりして 夕ぐれの
 つかみ取れない 星に願いを……

おぼろ月夜
   あなたとふたり みずうみに
 つがいの鳥の はばたく姿を

いつかあなたと
   約束交わした この場所で
 触れ逢えたなら 愛のすべてを……

長月の歌

子らの歌

あすの陽を
  夢みた頃の あさがおの
 ほゝえみたいな 僕のらくがき

くさ原に
  道を折っては 寝転んだ
 あの日の空は どこにいったの

まあるい
  まあるい お月さま
 ひとりじめする わたしだけして

さびついた
  基盤に刻む プレートは
 廃墟の島の 子らのらくがき

あの坊やは
  アザの絶えない 坊やでした
 シャボンは軒に はじけて消えて

走り寄って
   抱きしめあった 浜もいつか
 僕らの子ども はしゃぎ声かも

かなしみの歌

砕けた夢を
  拾いあつめて みたけれど
 波にさらわれ 凪の砂浜/岩礁

くだけてた
   かけらのこころ 触れたなら
 赤く染まるよ 君の指さえ……

粉々に
  くだけた基盤の 名残して
    錆びたこゝろよ
  明日をなくして

錆びかけた
  ブリキ細工よ どしゃ降りに
 ゆだねる胸の
    つめたさに似て……

穢されて
  打たれつづけて どしゃ降りに
 うずくまります 朽ちたざこ犬

この頃人に
  逢いたくてでも 恐くなる
 ボールの水に 指で落がき

指でふれて
   わたしの鼓動 確かめて
 お湯でため息 ねむるさみしさ⇒ひとみ閉じれば

わたくしは/よれよれの
  生きながらえて よごれては
 またあおぎ見る 冬の銀河を

時の流れに

砂時計
  さかさまにして もどれない
 あの日の夢よ 春の夜の夢

いじめた亀も
   おとひめさまの けむりして
 消えてゆきます 夢の終わりへ/火

生けるもの
  なく寂寞(じゃくまく)の 夕焼けは
 言葉も褪せて
    寄せるさざ波

こなゆきの
  舞い散る浜の 夢花火
 はばたく鳥の かぎろいに似て……

あのひとの歌

むかし /\
  銀のしずくを きらめかせ
 星のはやしを 渡る旅人

メールして
   答えはなくて あさやけの
 なぐさめに聞く 小鳥らの声

あのひとは
   かなたの夢の まぼろしと
 ためいき空に いじわるながれ星

くすりゆび 知恵の輪みたい
   沈黙が こわくなるから
 からさわぎして……

「好き」でなく
  触れ合う肌の もつれして
 君への愛を 伝えられたら……

ねえあなた
  あなたの今の しあわせを
 語りかけても
   答えないけど……

夕まぐれ
  手を合わせれば コスモスの
 あのひと影よ 風に揺られて……

もう君の
   おもかげさへも 浮かば/べない
 写真フォルダも そっと delete

夢あとは
  うつむく君の 影法師
 触れられず ただ 眺めていたけど……

さらわれて
  消されゆきます らくがきの
 君もなくして
    しおさいの唄

          (おわり)

2015/10/21 掲載

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