2015年の和歌に、詞書のかわりに詩を付けてみました。またあるものは、連歌につらねてみたり、連作和歌にしてみました。多様と統一をフィーリングにゆだねて、配置を変更してみました。ただそれくらいのことでした。
雪は降ります。雪は降る。
夜来の底に降る雪の、
雪は降ります。
雪は降る。
風は吹きます。風は吹く。
夜来の奥に吹く風の、
風は吹きます。
吹く風は……
春待ちの
梅が小枝の祈りさえ、
むなしく折れる
音がして、
雪が降ります。
雪は降ります。
いつまでも……
雪は降ります。
雪が降ります。
おはなしがうまくあいません
はなしたいことはなしたら
不思議な顔をされました
詰め込まれたようなかごだから
おはなししたくもなるでしょう
だれもがつどっているならば
ひとりぼっちは特別な
はなしたいことは特別な
かなしい気持ちにもなるでしょう
誰さえいない世界なら
はなしたいことも浮かばずに
うれしく笑えるものでしょうか
わたしにはよく分かりません
ただはなしたいことばかり
こころに広がってあふれます
だれもいない
だあれもいない ひるさがり
ともだちいない なんてつぶやく
振り向けば
サンダルをした人影はなくて
風は木の葉を舞あげるみたいに
海鳥は雲へと帰るのだった
遊んでいたはずの人たちは
わたしのこころから遠くって
なぜだか分からないけれども
生まれる前のいにしへの
おもかげさえも懐かしく
慕わしいように思われて
けれどもそれは……
きっと錯覚には違いなく
いつの時代にせよわたくしは
寄り添うとみせては、ふと返す
波のような生き方しか出来ないのでしょう……
たれひとの
砂に消される 靴あとを
ふるきうみへと かへすゆふぐれ
「挨拶をしても歌っている
名前を呼んでも歌っている
しかも僕らの知らない歌を
あっけらかんとして歌っていやがる」
それがどうして悪いのか
どうしてもわたしには分かりません
けれどもそれが気にくわないのだと
誰もが一致してののしるのでした
わたしの控えめな友だちも
どうしてそれが悪いのかは分かりません
そう白状しましたが
全体はおそろしくて、賛同するのでした
ただ賛同しないくらいのこと
個性として当たり前の尊厳が、いつの間にか
勇気を要するという不可解な、全体主義の贄にされて
個性はイミテーションとなりました。だって……
ただ賛同しないくらいのことが
個性をもたらす最底辺の条件であり
集合より先に立つような、自分勝手なそれぞれの
バリエーションには過ぎないものでしたから。
いつしかいびつにゆがめられ
無頓着なほどに同種的傾向をきわめた
子どもらがそほどに群がります
異端者を許してはおけません
案山子はまもなく殺されて、
反逆も知らずに塗りたくられた道化師もまた
彼らの仲間入りを果たすでしょう
それはわたしの過去から演繹された
わたしにとっての現実なのかもしれません。
誰がために
にくしみさえも なつかしく
唄うそほどを
蹴る子供らよ……
さかさ世界がうれしくて
のぞきこんだらにわたずみ
僕のひとみの奥底へ
真っ青なお空が広がって
輪っかに揺られたにじみして
お空にあめんぼながれてた
僕のひとみはきらきらと
揺られる風と解け合って
横切る影におどろいて
あっと思ってあお向けば
雲のかなたにあめんぼが
小さくなって羽ばたいた
しゃがみこむ
にわたずみ 輪を描く あめんぼの
飛翔 あおいろの 空のかなたへ
あらたかな
にわとり小屋の 餌をして
あたえられてた
ひとでなくして
はこびする
はたらき蟻の スーツして
ゆがみあってた まがいものかも
おびえてた
ずっとわたしは こころから
思うことさえ 誰にも告げずに……
(それが卑怯とは
決して知らずに……)
たゞひとの
ありかたのみが 不可解で
立ち止まっては 振り向けば影
[反歌]
もういまは
ひとこゑさえも なきはまへ
たゝしほさゐの なきのたそかれ
大切な人が消えたなら
なみだでにじんだ星屑の
大河のような岸辺には
水晶をした鉄道が
すみれの香りを炉にくべて
蒸気に変えて走るでしょう。
見送りもせず友だちと
ゆうべのままに遊ぶでしょう。
けれどもやがて旅立ちの、
小さな咎を知るでしょう。
あるいは生きてゆくわたくしの、
小さな罪を知るでしょう。
罪を逃れた友だちは、
かなたの星を慕うでしょう。
手を振る笑みはほがらかで、
ただ清らかな霧となり。
うらやましいけど、そんなきれいな、
蒸気になんかならなくてもかまわない。
もっと汚らしい姿さらしても、
生きていたいと願うなら……
あなたは明日へと踏み出して、
どし/\/\/\あゆむでしょう。
ただ今を、ひとときばかり、
罪滅ぼしと、いのりながら。
贖罪を
いのりとはかる 天秤に
ひざまずきます 北の十字架
谷間の村の星のした
ジャン・フランソア・ニコは生まれます
洗礼の鐘がこだまして
やさしく包んでくれました
谷間の村の太陽のした
ジャン・フランソア・ニコはエリーズに
やさしく口づけをかわすでしょう
教会の鐘は響きます
時は流れて夕まぐれ
ジャン・フランソア・ニコは三日月に
なにをお祈りするでしょう
遠くで鐘がこだまします
「Les Trois Cloches(レ ・ トロワ ・ クロッシュ)」
谷間には
希望ふたつめは よろこびと
最後の鐘を 待つ秋の歌
彼はあなたの敵ですか?
はなやぐ街のかたすみで
下手なギターの歌がします
あなたはいったい誰ですか?
はなやぐ街のかたすみで
誰も聞かない歌がします
こころをさらけ出すことは
がらくたみたいにさげすんで
過ぎ去る足音が響きます
誰もがおなじ表情で
いっせいに街へとあふれ出す
宵のにぎわいひとさかり
あなたはいったい誰ですか?
はなやぐ街のかたすみで
誰も聞かない歌がします
彼はあなたの敵ですか?
はなやぐ街のかたすみで
下手なギターの歌がします
「彼はあなたの敵ですか?」
与えられた
やさしさが君は こわくって
路なき国に なにを求めて
皆に忘れられた神さまは
しゃぼんのように消えました
それは本当は皆さまの
こころの結晶に過ぎなかったのです
神さまは
どこにもいません 神さまは
信じるひとは どこにもいません
それでも口先だけは
どこまでも神さまにすがるのでした
まるでそれが
御利益でもあるかのように……
神さまの
こころに鞭を 打ち据えて
十字に掛ける 人のありせば……
よぶこどり
咲き散る花の あこがれは
枝差し伸べて 月の幻影
ゆふべより あしたの原は
かすみして まだ見ぬ春を
まちわびるかも
たれかれも
なきの浜辺に 降る雪は
いのりもとなく さらふなみ音
うばすての
山路は雪に 閉ざされて
夜来にほそる ふくろうの声
わたつみに
あさる ほうまつ いさりして
くち果てますもの よもつ夜のゆめ
ぎったんふー
ばったんふー
あそびあそんであそばれて
つかれてかえるみんなです
ぎったんふー
ばったんふー
あそびたりないあそびして
つまんないやといじけます
ぎったんふー
ばったんふー
ひとりあそびにあそびして
手を伸ばしてるお空です
夕ぐれは
僕のひみつの おもちゃ箱
こんぺいとうやら バナナうかべて
影さそう
黄泉路ちかくのわたつみの
いざよう宮にまつりして
見たこともない物の怪が
踊り明かすよ七夕に
捧げる酒はまぼろしの
ひとの骨した結晶を
熟成させた二年もの
探しもとめる夢を見た
バミューダの
みなそこあさる おろち魚
うたう人魚の
腕まくらして
僕はようやく
閉ざされた空間に 表現の
自由を得たような 気がしたのだけれど……
それは詩型を
まったく意識 することもない
あたりきの語りの 口調だけれども……
遅すぎました
いまはたそがれ……
色づけば
散るもみじ葉の 落がきも
残されつもる それなゝぐさめ
馬鹿だね君は
語られゆくなんて信じてた
その言の葉を土に返して
[反歌]
木枯らし
散らした枝の 残骸を
焚き火にくべて ふるき歌うたえ
待ってる人は 来なくって
メールもベルも 来なくって
いじけた顔の その人を
オレンジ色した 夕日です
待ってる人は 信号の
お空の色さえ ぼんやりと
show window に もたれては
握りしめてる 端末です
いつまで待っても 信号は
赤とみどりの くりかえし
いじけた顔の その人の
うるんだような ひとみです
ゆびうちの
たれ待つひとの ゆふまぐれ
ゆきかひ過ぎる にじむ影して……
酒を飲まされたせいなんだ
あたいの意志じゃないんだと
ざわざわ ざわざわ こころのなかに
言い訳してみる朝食に
屈託のないだじゃれして
さえないカフェするおとこです
みるも無残な結末に
うなだれてみる朝食に
こころのなかの言い訳も
つづかないようわらわされ
ざわざわ ざわざわ さわがしい
残り火みたいな疼きです
あたいの意志じゃないけれど
あたいの望みであったもの
割り切れないもの 騒がしい
ざわざわするようなほてりです
ゆうべあたいは
からだをまかせた なんでかは
知らねえいまは ちょっといじける
やめようと
やはり飲もうか 雪見酒
うしろめたくて ちょっとうれしい
あじさいの
色たがえした うつり気よ
あした笑おう 今日は泣いても
買ったばかりの
すみれのシャツに 穴ひとつ
はずすあなたの ゆびさきふるえて
ピストルに
最後の夢を ゆだねては
ピエロは墓所に 数を夢みる
ろうそくの
あまた消えゆく 死に神よ
月夜にひかる 銀の鎌首
雨上がり
一本釣りや 鱧(はも)の味
酒にけんかが もどり雲して
たなばたに
はじめて君と 泊まりがけ
結ばれましょう
ことばはもうなく………
今も いつでも
どうしてもあなたの フルネーム
うち明けられない 君が好きです
あなた あした
しあわせ色した ハンカチーフ
振ります風に 春は すぐそこ
あの日 あの時
しゃがんだ道べの たんぽゝは
いつも おなじ 君の横顔
こそばゆく
れんげにきみを とらまえて
やさしくなでゝ くちづけしましょう
夕凪
にじむ入り日の しづけさに
あなたの肩を ひきよせられたら
月の浜辺
マリオネットな 影絵して
触れあう肌の くちづけしたくて……
しあわせの
ささやきを聞く 夕べには
わたしの歌は 波のまにまへ
風しもに あなたの影を
僕はただ 冷たい秋の
風の気配を……
あなたの鼓動
わたしの鼓動
触れ合いは
冬まぼろしに
過ぎないとしても……
永遠が
欲しくて君を 困らせて……
終わりにしよう
今はすべてを……
さよなら
春めくバスの 夕ぐれは
手を振る君の かなしみに似て
乾いた砂
セピア色した オーロラに
終わりの夜を 歌う ふたりで……
(おわり)
2015/12/16 掲載
2018/02/05 朗読掲載