2016年の和歌と発句のうち、まとまった章になりうるものを、制作順にカテゴリー分けし、それをアウトラインに、章を差し替え、歌を組み替え、差し込み、春夏秋などの章を設け、詩集にしたもの。そのうち歌数の多い「霜月の雪」を代表として名称にしたものに過ぎません。
年月のあらたまるごとに、人の世のかりそめの尺度の味気なさ、喜憂もなく過ぎゆくこの頃には、いのちの喜びさえも、薄れていくような気配ではありますが、人でなしにはなれないものならば、せめてもの祭事として、年明けを祝うくらいの情熱を、傾けてみるのも悪くはありません。
静寂の
屋根に街なみ 色映えて
羽ばたく鳥よ としあけの空
わかれ歌
夕べにわすれ 年のあけ
はつ春や指に翁の数え歌
派出所に
あけおめします 子どもたち
はにかみ顔の 新米もいて
「ゆうべ酒を呑んで」
五臓六腑に響き渡れや除夜の鐘
とかく呑みの句は甘きを徘徊するものなり
母(か)あ/\と
鳴いた鴉も 育ちして
としの残を 食い荒らすかも
神々の
定めも知らぬ さいの目に
あらたまります 人のこゝろは
隠れ家に
問ふ人あらば 言づてむ
「今年もよろしく お願いします」と
去年の終り頃、短歌と長歌の中間のものを、中歌としてはどうかと、思いつきにまかせて詠んだ、かつての落書
「光の波」
ゆうべの春の あらしさえ
忘れまなこの かもめたち
夢は青空 輪を描き
しおさい踊る ワルツです
「うさばらし」
散らばる床の ビー玉を
ひとつはじいて 数えます
みどりにぶつかる だいだいは
こぼれるなみだの いたずらです
あなたのたよりは いつくるの?
ささやいてみたりも するのです
今年の正月はどうしてだか子規居士の、
元日の人通りとはなりにけり
という俳句ばかりが、何度も口に浮かび来るような年始でしたが、この句は即興句のように感じられながら、その実、なかなかに、たやすくは詠めないような着想の飛翔があるように、私には思われてならないのでした。
手を伸ばしても
つかみ取れない 夜明けして
我らを照らす あまてらすの神
おやすみなさい
夢であなたを 呼子鳥
初恋はおぼろの髪のもつれかも
花誘う
眠りは春の 恋をよみ
まだ見ぬ人を 待ちわびるかも
校舎時計
さくら吹雪か わかれ歌
伸ばした手
届かぬ花の 病棟に
春告げ鳥の 声のかなしさ
本当を
教えてなんて 病室で
やさしい嘘した かなしみの春
子供しか
見つけられない 戸のむこう
夢と魔法の おとぎの世界よ
夕べ僕ね
見たんだ空に 舞いのぼる
とんがり帽子の 碧い少年
雪だるま
おそってくるぞ 秘密基地
迎え撃ちます いのちかけても
春めく妹の仕草に困る坊やかな
炭酸を夢に溶かして銀河かな
躍りませう
ゆかた祭の 君と僕
ともし灯の
虫を封じて 琥珀かな
おぼつかず
満月つかむ仕草かな
遊び疲れ
投げ出す草に赤とんぼ
星に伸ばす
手を不思議がる坊やかな
きみの背の
まだ上にある つた絡め
伸びゆく草を いつか追い越せ
僕たちの
朝日を浴びて 背を伸ばし
絡まるつたの 夢つかみ取れ
青き空
白き雲した 夏草の
気高き未来 どこまで続けよ
いつわりの
いのりの酒の ともし灯を
たよりに描く ポエムなのかな
砕け散る
こんぺいとうは きらゝかな
終わりの夢を わたし食べたい
銀河の果て
アルカディアめざした 素粒子の
さみしさくらい ひとりいきます
いつか僕の
還元される 分子には
またそれぞれの いのちともがな
いつか君の
振り向く影の この刻に
わたしはなくて 砂の落書
谷に這う
蔦の絡みの 伸びをして
はびこるほどの いのちともがな
天馳せる 夏告げ鳥よ
清滝の しぶくしぶきを
空へ届けよ
遠花火
くちびるは君の さよならを
告げようとして 風にとゞめて
酔ひ起て春日を厭ふ魔物かな
「炭焼党員檄文」
ブリキのおもちゃと足蹴にされて
転げ落ちる階段から飛び散る火花の
散り積もるみ墓となるのがオチである
ネギ買って
じゃがいも叩く師走かな
ゆず投げて
犬に追われて食われけり
冬ネギを
ちゃんばらに折る わが子かな
はたけのじいちゃん
ちょっとなみだ目
振りまけて
誰に抜かれる 双六の
さいの目ほどの いのちともがな
また酒の
たよるたよりに 夜は更けて
おどろおどけて かなしきピエロよ
朝の夢
夕べは風の すさびして
折れたつばさの
あとしまつに似て
よみ止めて夜来にしきる虫の声
誰が声か
逢魔が時の 夕まぐれ
朽ちゆくかゞし あるはわたしか
ほのか/\
ともし/\して うた/\ふ
ひとりひと夜の 灯ともしの歌
とも人も
はらからさへも ぬばたまの
星なき夜を ひとりつまづく
光と影
夢と幻 今日と明日
砂もてあそぶ 刻の旅人
いつかきっと
墓標にそっと 祈る君を
たったひとりの 友と定めて
わたしは生きゆく
刻のはざまを……
あまりにも
沢山の嘲笑を 真に受けて
君のこころも 信じきれずに
それでも祈る
あなたの思いを……
神さまが
まだ僕たちの 胸のうち
ひかり輝く 刻に生まれて
信じられたら
僕のいのちも……
後悔は
でもしていません むなしさの
最果に沈む 最後の夕焼
その美しさを
わたしはきっと知っていますから。
壊れかけの
人型模型 快楽を
むさぼるばかり 古代人形
誰(たれ)嫌う
誰を愛する 定理さえ
壊れて笑う 古代人形
チップの
精度の極み 変異して
不純物した 知性掲げて
情動を
離れた原始 回路図に
おびえて眠る 古代人形
それは君の
理念ではなく 実体でもなく
わずかな付属物の (不純物の真珠みたいだね)
結晶にしか過ぎないものを
知性とおびえて
軋む人形よ……
損なわれた秩序の
果のカオスに気づけよ。
こわれかけ
その場にあゆむ 単三の
うつろな夢した 古代人形
酔いどれの朝、何十年ぶりかのこの時期の雪を眺めて、
枯れかけの感慨に、わずかな清らかさを思い起こして。
2016年11月24日
切りつけた
其の手を 雪にうずめては
おさなき頃を 思ふ侍
あめつちの
ま白く映える 不思議さに
はしゃぐ心は 無くしたけれども……
あの頃は
はしゃぎあってた 無邪気さが
いのちのすべと 信じられたら
あの子らは
かつてわたしの はしゃぎして
遊んでいますか ふるさとの雪
朝まだき雪投げの子のけがれなさ
わたしには
眺める雪の 白ささえ
あくたに淀む 酔いのさみしさ
手の朽ちて雪に倒れるそほどかな
もう二度と
白くなれない 毛並みして
足を引きずる 老いぼれの犬
俳人ども雪さえ泥のまみれかな
雪遊び
おとぎの国の 子どもらと
憂いに満ちた パラレルワールド
大福を
三つ並べして 雪もよい
やわらかな
あなたの肌の ぬくもりは
雪見だいふく ふくよかさして
誕生日
忘れてすねる あなたへの
窓を開けてよ 雪のプレゼント
飲みかけのボジュレたらして雪しおり
雪あてに
てへと舌だす 恋人の
ほほえみたいな ゲレンデにして
転がして
夢をまるめて 雪だるま
あこがれみたいな 赤い手ぶくろ
賛美歌を
奏でる雪の 静けさは
南へむかう 星の鉄道
りんどうに
飾り雪して ほのかゝな
お吸い物
雪祓いして 三つ葉摘み
お出しに薫る 春のしずけさ
そばがきにはしりの雪のおもみかな
祖母の儀を
週遅れして 雪の朝
うずきして
歯みがきがてら 見る雪は
詩のかけらさえ 今はなくして
溶けのこる
ま白な屋根に 日は差して
小鳥ら歌う ほがらかの唄
きよらかな
ただきよらかな きよらかな
きよらかな雪 こゝろうつせよ
振り石の三段跳びや初氷
うずもれて朽ち木になずむだるまかな
負け犬の
冬のしっぽを蹴られては
北風の
人でなくした 冷たさに
穢され果てて 凍るセメント
よばい星
天(そら)は双子の 夢芝居
あすあした
あすなろあすの あさっても
あなたのことが 好きと言えずに
嫌い……
好き……
好き……嫌い……
でも……クリスマス
嫌い……
好き……願い
伝えられたら
いつわりの
聖者は眠る クリスマス
わたしはあなたに
そっと口づけ
あたゝかく師走が果の暦かな
かくしのみことだにまさる師走かな
吐く息に
驚くふりして 信号に
仕草もおなじ 人は群れゆく
(おわり)
2018/01/22 掲載
2018/01/28 朗読掲載