ゆく秋の歌

(朗読1) (朗読2)

ゆく秋の歌

 この間は失礼しました。けれどももう一度、私たちはよく話し合った方がよいのではないかと思うのです。確かに私はすべてにおいて、理屈によって解決を図ろうとしすぎるのかも知れません。ですがもし、理屈がなかったとしたら、あらゆる物事はフィーリング一辺倒に流されてしまうのではないでしょうか。そうしてフィーリングの果てにこそ、あの詩情を蔑ろにするような謎の集団が、生まれてきたような不始末もあるのではないでしょうか。

 かといってあなたの言うように、情で把握すべき事柄にまで、私があまりにも意味一辺倒に押し通そうとする傾向は、確かにあるのかも知れません。自分にはその自覚が、これでも少しはあるのです。直すことが出来ればよいと思います。しかしもう一方、情で解決してはならないこともまた、必ず存在しているに違いありません。

 しかし、このような遣り取りを繰り返したところで、列車のレールの右と左のように、交わるべき点が見いだせないような気がします。ですから私は、すぐにでも直に会って、話をした方がよいのではないかと思うのです。

 今日は、ちょっと書き留めておいた作品を送ります。私に悪意はありません。私は正直な人間です。それだけは信じて欲しいのです。決してあなたを、あるいは他の誰かを、不愉快にさせるために行動をしたことだけは、一度だってありませんでした。けれどももし仮に、私の存在そのものが、悪意の塊に過ぎないのだとしたら、それはもう、私にだってどうすることも出来ません。悪意のかたまりと人々が見なすところを捨て去ったら、私はどこにもなくなってしまうでしょう。ただの置物のようになってしまうばかりなのです。

 つまらないことを書きました。直に会ってお話しすれば、簡単に分かり合えるくらい、些細なことのような気がします。どうか、お暇な日時をお聞かせください。必ずその日を開けて、お待ちしたいと思います。

 今日の作品は、甘ったるいところもありますが、恋を表現したものも多く、私にしては明るい作品が多いように思われます。また女性側から詠んだみたいな歌も、多く込められています。これがあなたの影響であることだけは、信じていただければ幸いです。それでは、失礼します。

消せるとはいい訳みたいなえんぴつで
しるす間もなく君が好きです

春雨のたそがれ頃のしずくには
傘まち人のなみだ混じるよ

色のみを違(たが)えておんなじ携帯の
恋もしたいな合わせストラップ

よかったねいいことあったねと耳もとに
ささやく気配も春の潮騒

アレグロは止めますふたりの二楽章
待ちぼうけしてる今日はアダージョ

あんたらのべったりですねと噂され
照れてみたいな宵の待ち人

軒花の火ともし頃をただいまと
声もふくらむ二年目の春

牛飼いの煙も細るねむり火を
夢に託して満天の星

蛍草こぼすなみだのきらめきを
見守るくらいの何のやさしさ

柿若葉キラキラきららめくほどの
点と描けば夏のキャンバス

あれはまだ十五の夏の物語
パラソル待つ駅とおき人影

触れようとしかけ花火のおどろきも
浴衣の君も僕のしあわせ

たとえれば線香花火の悲しみを
宿し影さえ夏の去り歌

アルカンの化学式さえにじませて
追試覚悟の恋のおもみよ

甘くってもういっこだけ伸ばす手の
こころもふとる午後のおやつよ

夕焼けの染め織るものか山紅葉
もらい映して風のとんぼよ

祈りさえなかれなみだの恋心
それな彼ゆえ今日のため息

粉雪のリズムとたわむれ歌う子の
あやし声さえ母のぬくもり

あふれてはこぼれ涙の祈りさえ
あて名忘れて個室プレート

咲きかけをなだめ仕草もつかの間の
戻りの雪にこごえ椿よ

ふきのとう雪解(ゆきげ)の頃を春あらし
吹きの遠くをなんの足音

春はまだ泣きむし色したあの人を
慰めきれない梅のつぼみよ

ららりらら春待児童の校舎より
唄なお高く未来えがけよ

空にほらぽっかり浮かんだ雲ひとつ
そんな日もまた嬉しかったね

肩に手をぽっかり雲のなにげなさ
触れてかしげる君の片頬

よきことのひとつふたつも見つめつつ
よせ波ごとに貝のひめごと

油彩画の下絵のらふの下心
ほどいてみたいなたばね髪の毛

なくしもの見つけ隠して君の手を
あったかいなんてひらかせ指輪よ

銀匙(ぎんさじ)と輝き勝るシャンパンと
友のかどでとたなむけの歌

言葉では伝えきれない愛がある
手を取りあっていこう明日へ



   (二〇〇九年十月十九日)

2010/3/13

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