呪いの人形

(朗読)

呪いの人形

 野球部の練習が続いていた。ピッチャーが球を投げた。キャッチャーが受けた。キャッチャーが返して、ピッチャーがまた投げた。俺たちはその間、グランドを走っていた。夕暮れが近づいて、グランドがオレンジ色に染まっていた。

 グランドの隅には、砂土(さど)の山があって、シャベルが突き刺さっていた。コンクリートの容器があって、学校の改修を賄っていた。もちろん練習に支障はなかった。ただどうせなら、よれたネットも直して欲しいと思うばかりであった。

 部室並びのあたりで、テニス部が練習をしていた。奴らは軟弱だったから、男女が一緒になって練習していた。軽蔑しながらも、実はちょっと羨ましかった。しかし男子は人数が少なくて、試合にも勝てなかったから、一面しかコートが貰えなかった。女子のほうが幅を利かせていた。それでいて部室は別々だったから、男子は人数の割に、贅沢な暮らしをしているのだった。俺たちがグランドを回っているのに、奴らは部室の屋根に乗って遊んでいやがる。顧問も出てこないから、よっぽど俺たちも走るのを止めようかと思った。

 俺たちが五、六週走り終えると、不意にドサリという音が響いた。振り向くと、あのピッチャーが倒れていた。慌てたキャッチャーが走り寄るので、俺たちもランニングを止めた。

「どうした、しっかりしろ」

と声を掛けたが、返事はなかった。白目をむいているようだ。

「おい、どうした」

「脳震とうか」

「水でもぶっかけるか」

走っていた連中が集合した。もちろん俺も駆け寄った。

「馬鹿、地面に降ろせ。動かすな」

良識のある奴が、指示を出しながら、顧問を呼びに行かせた。顧問は職員室でお茶を飲んでいるらしかった。慌てて飛び出して来て、ピッチャーの目玉を確かめると、救急車を呼ぶと言い出した。奴は意識を喪失していた。

 高跳びの片付け残りで、顧問が練習の中止を告げた。けれども俺たちは、しばらく部室に居残っていた。

「おい、なんかおかしな兆候はなかったか」

「いや、いつもと変わらないって」

「しばらく、寝かせとけば起きるんだろ。救急車なんて大げさな」

などとがやがや遣っていると、

「おい、亡くなったってよ」

一人の部員が、駆け込みながらに叫んだのである。俺たちはざわついた。

「心臓麻痺だそうだ」

彼は息を切らしている。

「脳震とうじゃなかったのかよ」

「だって、倒れたとき、息があったじゃねえかよ」

「あいつ、なんか持病でもあったっけ」

「いや、そんなの聞いたことない」

なんて噂していると、

「まさか、昨日の人形のせいじゃ」

と言い出した奴がいた。俺たちは、夕べのことを思い出して、はっとなった。奴は夕べ、あの人形を踏みにじったからである。人形は美術室にある。今日もひっそり佇んでいることだろう。俺たちはちょっと顔を見合わせた。

 着替えの時はなおさら騒がしかった。

「不祥事で出場停止かな」

「馬鹿、なんで不祥事なんだよ」

「だって、あの顧問。現場にいなかったろ」

「それで俺たちまで巻き添えかよ」

「どっちにしろ、ピッチャーがいねえんじゃ」

「そうだ、雄一、お前がピッチャーやれよ」

「何言ってんの、一回戦負けになっちゃうよ」

「出場停止よりはマシだろうが」

しかし、奴の死を惜しむものはいなかった。

 奴は不用意に威張り散らしすぎた。戦力としては信頼されていたが、人間としては嫌われていた。だから誰も悲しまなかった。それでもお通夜には、何人かは出席するんだろう。俺はまっぴら御免だった。

「別に、悲しくもないけどな」

と正直に言い放ってやった。

「俺も悲しくないぜ」

「むしろ、嬉しかったりして」

「甲子園なんて行けなくてもいいし」

学生は正直である。そんなこと言うんじゃないなどと、偽善を吐く奴はいなかった。しかし、そのうちまた、

「昨日の祟りだ」

と誰ともなく言い出したので、

「冗談よせよ」

とみんな真顔になった。ちょっと恐ろしくなって、それっきり、その話しは出てこなかったのである。

「当分は部活も中止かな」

「いいんじゃねえの、それはそれで」

「そういえば、お花代かなんか、集めなくていいのかよ」

と真面目そうな奴が言うので、

「ああ、そのうち顧問から連絡があるんだろ」

といい加減な返事をして、部活は解散となったのであった。

 みんなは校門を逃れていった。ちょっと引き返してみると、職員室では、緊急会議が開かれているらしかった。すでに大半の教師は帰ってしまった後だが、まだ十人くらいは残っていたからである。今に校長が飛んでくるに違いなかった。

 俺は夕べのことが、どうしても気になって仕方なかった。体育館への通路から校舎へ進入すると、寂寞(じゃくまく)をまとって、ヒトダマが飛び出しそうなくらいひっそりとしている。窓からは、校舎に跳ね返った夕焼けが差し込み、それでいて廊下はしんと薄暗い。腕でも伸びてきそうな恐怖を振り払って、俺は三階へと足を踏み出した。

 教室のあかりは一つもなかった。借り物のスリッパがぺたぺたと音を立てる。不気味なリアリティに引き寄せられるみたいに、夕暮れの美術室へと近づいていった。俺は夕べのことを思い出した。



「馬鹿。そんな迷信、誰が信じるかっての」

あのピッチャーの台詞だった。奴は美術室の人形を踏みにじった。文字通り、その靴で踏み付けにして、あざ笑って帰っていったのである。

 それは部活の合間のひと遊びには過ぎなかった。熱血でもない俺たちの野球部は、顧問が出てこないことすら多かった。だから、薄気味悪い学校を利用して、ちょっとした肝試しに練習をさぼっていたのである。

 美術室には一体の人形が置いてあった。外国の娘さんの姿をしていた。ずいぶん細長い作りだった。芯が入っていないから、持ち上げるとぐんにゃりする。その代わり、木製のつっかえ棒に支えられていた。入口から入ると、まるで見つめるように置かれていたから、不気味な噂が立つのは避けられなかった。つまりは学園七不思議の一つになっていたのである。

 話はどこまでも膨らんだ。戦時中の旧校舎で、家族ぐるみの心中があったとか、新入生の女の子が、人形の世話をよろしくと書き残して自殺したとか、もっぱら死にまつわる話に終始するのは、仕方のないことだった。家族の構成やら年齢までも、まことしやかに囁かれる始末だった。決して、「アメリカの友好都市から送られてきた」なんて現実的な話は見られなかった。学校を建てるとき、巫女さんが人柱になったという、荒唐無稽なものまでレパートリーに加わった。けれども、誰も真相は知らなかった。そもそも置いてある理由が、先生にも分からなかったからである。

 夕べ奴は、この人形の伝説を踏みにじった。それは美術室に入って、人形に触れてくるという、くだらない遊びだった。ただ遣ってみると、口で言うよりは難しいことが分かった。俺たちは大いに盛り上がった。新入の一年生が一人、失敗して帰ってきた。ちょっと泣きべそを掻いていた。二年生も上がっていったが、目があった瞬間、おめおめと引き返してきた。俺たちは思った以上に迷信家らしかった。

 それで奴の出番となった。勝手に志願したピッチャーは、みんなを大いにあざ笑って、威勢よく駆け出していった。失敗を期待して、俺たちは跡をつけていった。ところが奴は、美術室の扉を開け放つと、入るやいなやその人形をつまみ上げた。俺たちが、思わず後ろから、

「おお」

と声を上げると、図に乗った奴は、

「馬鹿野郎。こんな人形に怯えやがって」

といって、人形を床に落として、足で踏みつけにしたのであった。それが勝利のポーズであるらしかった。

「祟られるぞ」

「大変なことになる」

とみんなが脅しても、奴はこたえなかった。

 みんなはそのまま降りていった。俺は一人で美術室に残された。黄泉の国みたいなオレンジの夕陽が差し込んで、三階の外れにあった教室を、異質な空間に仕立てていた。俺は人形が踏みにじられながらも笑っていたような気がして、さながらゾッとしたのである。だから奴らが立ち去った後、慌ててそれを木枠に戻したのは俺だった。みんな恐れて、美術室には入ろうとしなかったからである。



 その翌日、奴は心臓麻痺で死んだ。すでに着替えを終えた俺は、とうとう美術室にまで辿り着いた。奴が倒れて、すぐ練習が中止になったから、まだ西日が残されていた。俺は吸い寄せられるように、美術室の扉を開いたのである。あの人形に呼ばれているような気がしてならなかった。

 鍵は掛けられていなかった。夕べと同じだ。ようするに警備がずぼらすぎて、いつも開けっ放しなのである。そっと扉をスライドさせると、

「ガラガラガラ」

と不気味な音を立てて、開いたとたんに人形が見つめていた。水平線すれすれの入り日が射し込んで、夕べとおなじ異界を、血の色みたいに染めているのだった。

 人形はこっちを見て、笑っているように思われた。俺は美術室へと踏み込んだ。木目の床張りで、スリッパの音が急に変化したんで、木造校舎に紛れたような錯覚を覚えた。あるいはここは、持ち主が自害したままになっているのだろうか。

 人形は白い顔をしている。服は朱色が基調になっている。今では夕日を受けてもくすんでいるが、昔は鮮やかだったに違いない。異人さんみたいな女の子である。そうしてやっぱりほほ笑んでいる。俺はそれを手にとって、夕べの靴跡を払ってやった。なぜだか、人形に咎があるようには思えなかったからである。

「あなた、それが怖くないの」

不意に後ろから女の声がしたんで、俺は飛び上がらんばかりに驚いた。冷却スプレーを心臓にぶっけられたかと思ったくらいである。ばっと体ごと向き直って瞳を見ひらくと、俺よりは年下の、まだ中学生くらいの女の子が、だらしないわねえといった表情でほほ笑んでいたのである。

「どこから入ってきたんだ」

俺は、思わず馬鹿なことを聞いてしまった。

「何いってるのよ。始めからいるに決まってるじゃない」

私は思わず足もとを確かめた。幽霊では無いようだ。彼女は笑い出した。

「馬鹿ねえ、足もとなんかで判断できるわけ無いじゃない」

と言うので、俺は思わず、

「そ、そうなのか」

と答えて、大笑いされてしまった。それから彼女は、自分に触れてみろと言いだした。俺はちょっと躊躇したが、ほらと手を伸ばすから、言われるままに握りしめてみた。

 すっと空気を掴むみたいに、はっきりと見えるその手がすり抜けたのには驚いた。やっぱり幽霊じゃないか。

「どうよ。足なんかじゃ、分からないでしょ」

彼女は屈託もなく笑っている。しかし、幽霊だろうと、悪魔だろうと、自分に危害を加える様子が見られないんで、少し安心してきたから、

「まさかお前、ここで自害したとかいう女の子じゃ」

と学園七不思議のことを尋ねてみたのである。すると、

「そんな作り話、真面目に信じちゃうわけ。せっかくいい時代なんだから、しっかりお勉強しなきゃ駄目じゃない」

と諭されてしまった。

「そんないい時代かな」

「いい時代よ。当たり前じゃないの」

「お前の時代は、そうじゃなかったのか」

「私? 私の時代は戦時中よ、戦時中」

と悲壮感もなく言い放つ。幽霊とかいうものは、実際はあっけらかんとしているものらしい。

「そうか、やはり徴兵の兄とここまで逃れてきて、とうとう兵隊に追い詰められて」

私は懲りずに、七不思議の別の話を思い出してしまった。

「ちょっと、いい加減にドラマのねつ造は止めてくんないかなあ。戦争ってのはね、そんなお涙ちょうだいの物語じゃないのよ」

と呆れ果てるので、

「そうなのか」

とキョトンとしてしまった。

「だって沢山の人が亡くなったんだろ」

「だからね。もっと即物的なのよ。即物的」

俺にはその意味がよく飲み込めなかった。彼女は簡単に説明してくれた。

「戦争ってのはね、ドラマチックを断ち切るたぐいのものなのよ。駄目よ、偽りで固められた映画やドラマに夢中になってちゃ」

 彼女の話によると、兄も父親も徴兵で取られてしまったし、町が空襲にあって家を追われたので、ここにあった木造校舎に寝泊まりをしていたのだそうである。もちろん人形だけは持ってきた。大切なものだったからである。そこへもう一度、空襲警報が出されれた。慌てて防空壕へ逃れようと思ったら、窓の外がぱっと明るくなって、もうみんな吹っ飛ばされてしまったそうである。だから、火のなかをさ迷って母親を求めたり、助けてと叫んだりする間もなく、自分が不幸であるかどうかを確かめる間もなく、気がつけば、もう死んでいたという話だ。

「実にあっけないものだわ」

と、彼女は他人事のように付け加えた。

「悲しくないのか」

と、思わず尋ねてみたら、彼女は急に吹き出した。

「馬鹿ねえ。悲しいなんて人間の感情じゃないの。生きているからこそ悲しいのよ。分かる?」

「そうなんだ」

俺はつい感心してしまった。

「それで、人形だけは残されたのか」

「うん。これね。空っぽの金庫に冗談で入れといたら、焼け残っちゃって」

と眺めている。

「それで、この世に未練が生まれたのか」

と聞いてみると、彼女は首を横に振った。

「そうじゃないのよ。この人形が私のたましいを未練がましく引き留めているのよ。それであなたにお願いがあるんだけど」

 まさか幽霊に頼まれごとをされるとは思ってもみなかった。けれども彼女は、純真爛漫(らんまん)そうに見える。おまけに、髪が長くてかわいらしい。俺は単純だったんで、いつしか幽霊と話しているんじゃなくて、年下の女の子と話しているような錯覚に陥っていた。

「なんだよ。祟られるようなお願いは嫌だぜ。今日だって、一人死んじまったんだ。あれってお前の仕業じゃないのかよ」

彼女はにやにや笑っている。

「な、なんだよ」

「だって、あなた。あいつに居なくなって欲しかったんじゃないの。私知ってるんだ」

と言い放つんで、びっくりした。急に恐ろしくなった。やっぱり俺たちとは感性が違っている。些細なことで、サクッと人を殺してしまうような生き物なんだ。生き物? いや、これは違っている。もう死んでいるんじゃないのか。なんだか分からない。とにかく、俺に対する好意だったとしても、とても感謝する気になんかなれなかった。

「やあねえ、勘違いしないでよ。別にあなたのために彼が死んだわけじゃないんだから」

「そうなのか」

俺はポカンとした表情になっていたらしい。また彼女に笑われてしまったからである。

「あいつは、私の人形を踏みにじったのだから、その代償を支払うのは当然なの。これはいわゆる、自然界の法則で、あなた方がそれを忘れちゃっているだけなのよ。霊魂宿るものにむやみに近づいちゃいけないのよ。分かる? すぐそうやって、人間の枠組みでものを考える癖、止めた方がいいわよ。視野が狭すぎるんじゃないの」

なんて言い出した。さっきから、言い込められてばかりである。

「悪かったな。それで、何をして欲しいのさ」

ようやく開き直ってみせると、

「この人形を焼却して欲しいのよ」

とさらりと流すので、またぎょっとなった。ピッチャーの末路を思い出したからである。

「そんなことをしたら」

と思わず後ずさりしてしまったのは、自分ながらに情けない。やっぱり俺は、目の前の幽霊を恐れているのだろうか。しかしなんと言っても、気に障ればサクッと人を殺しかねない連中なんだ。平気でなんかいられる訳がないではないか。

「大丈夫よ。私の願いでそうするなら、心臓麻痺なんかになったりしないから」

彼女は涼しい顔をしている。それから、

「そうしたら、私もこんなところに束縛されないで、自由になれるの。今までいろんな学生に頼んだんだけど、みんなぶるぶる震えて逃げていっちゃうのよ。まったく、近頃の人間はだらしないんだから。ねえ、あなた、私の小さな勇者になってよ。お願いだからさあ」

と近寄ってきた。やっぱり、ずば抜けてかわいい表情なのである。もう夕暮れも、染めるべき赤を、次第に無くし始めている。彼女はふっと窓際へ近寄った。

「私さあ、基本、この時間帯しか姿見せられないのよ。逢魔が時(おうまがとき)なのよ、逢魔が時。分かる?」

「さあ」

「さあ、じゃないでしょ。とにかくお願いしたからね。守ってくれなくちゃ嫌だよ。それじゃあ、もう消えるね。ばいばい」

と一人で勝手に盛り上がって、彼女はふっと消えてしまったのであった。

 俺は惚けたように取り残された。人形だけが黙って見つめている。夕空は、下だけ血の色を残して、不気味な表情をさらしていた。このような赤が炸裂して、沢山の生き血を吸って、昔の校舎を灰にしたのだろうか。あの子はその中にあって、気づく間もなく命を絶たれたのだろうか。そうだとしても、ピッチャーの命を奪う権利なんかあるのだろうか。いや、それは人間的な発想だって、彼女は笑っていた。自然界の掟なのだったら、きっと勝手にそうなってしまうんだろう。第一、俺だって、あいつが死んだからといって、わざとらしく悲しんでみせる必要なんかないんだ。素直に、彼女に感謝しておけばいいではないか。好きでもない奴の命を推し量るなんて、人工的な偽善ではなのではないか。ああ、それにしても、真っ赤だ。

 俺は窓辺から、濁りゆく血潮を眺めていた。下界から自動車の音が響いてくる。タクシーが慌ただしく到着したらしい。校長の禿頭が、入り口へと駆け込んでいく。これからまた、ひと騒動あるのだろう。もし、めぼしいニュースでもなかったら、マスコミが暇をもてあそんで駆け込んでくるかもしれない。うちの顧問は、お茶を飲んでいただけで、監督不行届の末路とかなんとか、糾弾され尽くすことになるのだろうか。幽霊とどっちが恐ろしいか、分かったものではない……

 俺はゆっくり人形のところまで戻ると、それを手にとって、そっと鞄にしまい込んだ。そうして家に帰ってから、庭先でそれを燃やしてやった。枯れ葉と一緒になって、人形はこっちを眺めながら、ほほ笑みを絶やさずに炎に包まれていった。俺は不意に、さっきの夕日を思い出した。

 あたりはもう真っ暗である。炎だけが、ちろちろと舌を覗かせている。しかし人形が焼け終わると、ふっと彼女が隣に現れたのであった。

「ありがとう。これで人形から離れられるわ」

とほほ笑むので、

「よかったな」

と答えておいた。それから思わず、

「もう、会えないのかな」

と呟いてしまったら、

「馬鹿ねえあなた。もう会えるわけないじゃない。ちゃんと生身の恋人探さなきゃ駄目よ。近頃の男はだらしないんだから」

と笑いながら、ばいばいと手を振ってみせたのである。心を読まれたらしい。俺は、

「ああ、さよなら」

とぶっきらぼうに答えて、幽霊と分かれたのであった。それ以来、二度と彼女を見ることはなかった。

2010/3/11

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