夢による十二の小品

夢による十二の小品

趣旨
………見た夢にもとづく物語。とはいっても、夢をつづったものではもちろんない。「夢によるいくつかの変奏」にどのような形で組み込まれるかは再考中。

古層の夢
………自分のもっとも古い夢は、記憶の断層にわずかな一枚のスナップとして残っているに過ぎないのだった。
彼と奴ら
………彼はこころの友を願ったが、常にひとりぼっちだった。クラスの奴らは彼を仲間に引き入れようと画策するのだった。
飛行の夢
………日本にいながら西欧社会の伝統的呪術ともされる飛行のわざを身に付けた私は、西欧の友人の出席するパーティーに出席して、城のような館で立食を楽しんでいた。ほろ酔いが回るに従って、日本人的な隠し芸の情熱が高まってくるものだから、つい調子に乗ってそれを披露してしまったのである。始め喜んでくれていた皆さんも、私のジェスチャーがあまりにも不甲斐ないので、次第に飽き始めるのだった。
一本の線路
………夢のなかで、幼い頃の私は、一本の線路をどこまでもさかのぼる冒険に出発した。もう列車の走らない、どこまで続くのか分からないその路線を歩んでいくと、日は昇り、また沈み、それに合わせて季節が、春から夏へ、夏から秋へと移り変わるのだった。どれくらい歩き続けたことだろう。歳月が移り変わったためだろうか、次第にまわりの色彩が変わり始めた。
呪いの人形
………野球部の練習が続いていた。ピッチャーが急に倒れて救急車で運ばれた。その途中で、奴は亡くなった。心臓発作であった。思い返せば、昨日、部活の合間におこなった肝試しにおいて、あのピッチャーは美術室にある呪いの人形を踏みにじったのだった。人形の祟りではないかと、部員たちは噂しあった。俺はひとりで、美術室へ確かめに行こうと考えた。
赤い雪
………近未来。日本の首都は健在だった。ありきたりの朝。青年は添い寝の彼女を置き去りに、ベットから起き出す。何も事件は起こらない。ただ朝食を準備するのである。灰色のベランダ越しの朝の町並み。彼女もようやく起きてくる。遠くには水没した町並みを飲み込んで生まれた、新しい港が見える。海は新種のプランクトンの影響で、朝にも関わらず緑色に光を放つのだった。
水の夢
………夢のなか。下流の穢れた景観に呆れ果てた自分は、遥か上流へとさかのぼったら、価値観の違う世界がありはしないかと思い立った。ボートを走らせると、次第に自然の景観が勝ってくる。そうしてようやく温泉場へと辿り着いたのだったが、そこでも人々の価値観は変わらないのだった。自分はさらにさかのぼる決心をした。
生き埋
………夢のなか。富士山が噴火した。自分は部屋から出られなくなってしまった。それだけの夢である。
銀河の果
………宇宙探査の途中に、島状の浮遊天体に不時着した。自分は一人で森林の高台に立っている。向こうには宇宙船が死んだように眠っている。信号を送っても何の返答もない。島は常に夜であるのに、遠くの恒星が月のように照らしていた。森からは恐ろしげな遠吠えが聞こえてくる。自分は夕焼け色に発光する不思議な生物を追ってみることにした。その先には、不思議なピラミッドが控えていたのである。
密林の祭壇
………シティは水没した。再生されたシティに、再び享楽的な都市が生まれた。ラネトは新しいシティに生まれた。密林のことなど知りもせずミルカとの恋に戯れていた。ある時、ラネトの父が取締役を務める企業が、密林での掟を破って、上流に船を走らせた。シティに再び雨が降り始め、それは止む気配すら見られなかった。ようやく人々は、かつて水没した時のことを思い起こすのだった。
サナトリウム
………夢のなかで、木造の不思議な療養所へ紛れ込んだ青年が、親父の見舞いの付き合いに飽きて、まるで木造校舎みたいな病棟を歩き回る。そこには隔離されているらしい沢山の患者たちが、なぜか悲しみもなく騒がしい生活をしているのだった。それを避けるみたいに階を上がるとき、青年は個室病棟に、ひとりの淋しそうな少女を見つけるのだった。
廃墟の汽車
………廃墟の奥まったところに彼らは住んでいた。彼らは滅びかけた町並みから、物資を調達して、汽車の眠るねぐらで、子供らだけで生活を営んでいた。彼らの生活は貧しかった。食料の確保さえままならなかった。けれども彼らは幸せだった。仲間がいて、歌があった。そうして機械好きの少年が、汽車を甦らせようとしていた。

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