ベルリオーズ イタリアノハロルド 1楽章

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標題

山の中のハロルド、憂欝と幸福と歓喜の情景

序奏(Adagio、4/4拍子)、憂鬱の情景

 標題の「憂鬱」を表わす情景だと思われる。学理的な2重フーガによる主題提示の後、エピソード部分では後に長調で登場するハロルド主題をホモフォニースタイルの短調で提示、再びフーガ主題の登場によりエピソードを形式化しつつ、たちまち序奏を終えると、(G dur)でハロルド主題が登場してくる。

2重対位法導入(1-13)g moll

・フーガの実践的導入の教科書でも作るためかと思わせるぐらい理論的に構築されたフーガは、弦楽器が受け持つテーマと、管楽器が受け持つテーマを持つ2重フーガになっている。弦楽器のテーマは半音階上行を内包して開始し16分音符で行なわれ、管楽器のテーマは半音階下行によって8分音符で行なわれ、2つの主題の対比も非常に理論性整然としているが、声部導入の方法も、弦楽器のテーマが声部音域で考えると、[バス→アルト→テノール→ソプラノ]のジグザグ上行型(もっとましな名称は無いのか)であるのに対して、管楽器のテーマが、[テノール→ソプラノ→アルト→先のソプラノのオクターヴ上]と、ここでは双方のテーマが同じ順番で声部導入を果している。しかも半音階上行を内包する弦のテーマではより低い位置から、半音階下行で始まる缶のテーマはより高い位置から開始し、声域の配分も整い、これは管楽器の音域で伸びる音色を生かす声域にもなっている。
・この理論的フーガは恐らく社会内に生活する主人公そのものを象徴するものとして、楽句に意味が持たされているようだ。フーガならエピソードが開始する部分において、その社会内部における主人公の憂鬱が提示される。

ハロルド主題の短調序奏(14-)g moll

・すなわち、後にヴィオラで登場するハロルド主題を、管楽器によって短調で提示し、その憂鬱が表現されるが、フーガ部分との連続性は、ベースラインに16分音符の進行が継続することによって保たれ、対位法のエピソードに置き換わるものとして、見事にポリフォニーとホモフォニースタイルが統合している。やがてフーガの主題が再現され、再び対位法的部分が開始するかに見せて、34小節からのユニゾン進行によって序奏から離脱。ヴィオラによるハロルド主題の登場となる。旋律同士の絡み合いによる対位法が、その瞬間に同じ旋律で重なり合ったという意味あいを込め、和声の上に旋律が進行するホモフォニーへの橋渡しにするのは、極めて理に適っている。そして、この力強い進行(ユニゾン進行は、もっとも力まかせの瞬間でもある)によって主人公が社会に居た時の精神状態から離脱し、イタリアの自然がもたらす光景に、心開いた瞬間でもあるのだ。

序奏継続、幸福の情景(36-94)

ハロルド主題(36-72)G dur

・テンポの変化はないのに、調性が長調化する印象の大きな変化と、連続的な16分音符からの離脱、体感時間に粘着力を与える対位法的束縛から完全に解放されたハロルド主題の導入は、時の流れが変化したかのような印象を聞いているものに引き起こす。同じ継続する時間が違って感じられる、同じ旋律が調性を変えただけでまるで印象を変える、まるでベルリオーズはそのことに気づかせるために序奏部分を念入りに作曲していた心持ちまでしてくるぐらい、単純にして見事な戦略だ。ここでハープの響きが導入され、これが初め短3和音で、そしてただちに長3和音で繰り返される時の、音の色彩変化の美しさ。そしてヴィオラによって息の長い旋律が開始するが、これこそ楽曲全体の主人公の基本的心情となる、「イタリアのハロルド」における「イデー・フィックス」として使用されることになる。
・和声的には特に59小節で(G dur)に対して7度構成音であるF#を根音に、短3和音を成立させることによって、(fis moll)を近親調のように使用している所などを指摘しておこう。

ハロルド主題繰り返し(73-)G dur

・主題繰り返しは、管弦総奏にいたるというオケの常套手段によって、主題が繰り返されるが、低声部と高声部が僅か1拍遅れたカノンになっていて、序奏での対位法という理念そのものが生かされている。しかし1拍遅れた2重奏は、ずれた旋律同士が新たな絡み合いを見せる対位法的な練り上げではなく、ほんの僅か応答が遅れた同一旋律の印象が濃い。華やかな弦楽器の修飾伴奏が、ハロルド主題を一層煌びやかに演出し、ここに至ってハロルドの精神が世俗世界を忘れ去り、大自然を精一杯に受けて幸福に至ったことを告げる。そんな気持ちで楽曲を眺めていると、この1拍遅れのカノンは、もしかしたら山びこを表現しているのではないかと思いたくなってくる。

(Allegro、6/8拍子)、歓喜の情景

 ヴィオラによる協奏曲形式も内包したこの曲の中心は、コンチェルト・ソナタ形式になっている。

提示部(75-191)

オケによる歓喜主題導入(75-)G dur

・オーケストラによる主題提示の最中に、自由パッセージを演奏するソロヴィオラが1度予備投入され、オケ主題が終わるとヴィオラによるソロ主題が導入される。

ヴィオラによる歓喜主題(125-146)G dur

・主題は跳躍上行をアウフタクトに持つ順次進行下行型開始の8分音符型になっている。

オケとヴィオラによる歓喜主題(147-)

・オケとヴィオラが交互に応答し合うように歓喜主題が継続するこの部分は、同時に応答主題への推移ともなっていて、主題そのもので推移を行なっていると見ることが出来る。

オケによる応答主題導入(166-172)

・主題に対して付点4分音符型で分散和音上行形で開始する応答主題は、(B dur)の属和音から主和音で開始し、これに応答するように導入されるビオラ応答主題は(G dur)の属和音から主和音で同じ形を反復して進行する。(B dur)の近親調なら(g moll)を挟みたいところで、ワンステップおかずに(G dur)領域に持ち込むなどの逸脱は、ベルリオーズの好むところだ。

ビオラによる応答主題(173-)D dur→d moll

・オケ主題に応答するようにヴィオラ主題が登場するのは、主要主題で[オケ→ヴィオラ→オケとヴィオラの応答]と行なった主題を、ここでは初めからオケとヴィオラの応答的に行ない、ただちに繰り返しに向かうためである。
・主要主題の3回目の繰り返しを推移に変え、応答主題を切りつめた楽句は、これ以上短縮できないほどコンパクトに設計されていて、無駄がない。ソロ楽器が好き放題名人芸を披露するなど噴飯ものだと考えていた(かもしれない)ベルリオーズならではの構成法だ。ここではオケとソロの協奏曲的な対比を生かし切って、なおかつ交響曲的な構成密度を保っている。

展開部

第1主題による展開部(192-258)

・まず(207)までが主題登場までの導入になっているが、重要な動機である付点付きの「タンタタン」リズムが管楽器に登場し、弦楽器に引き継がれる。導入はこのリズム型の導入となっていて、(208-219)ではソロチェロの第1主題と、「タンタタン」リズムが絡み合う。
・続いて(220-236)では「タンタタン」リズムは連続した管楽器による8分音符の和声的伴奏として楽句密度を高め、その中でヴィオラとヴァイオリンが第1主題の断片を継続。この時ヴァイオリンによる主題冒頭に対旋律断片がヴィオラに導入されるが、これはすぐに使用されるのではなく、いったん弦楽器による第1主題総奏にいたる。
・(237-258)では管楽器に第1主題が移り、途中途中に弦楽器による第1主題の応答句が形成される。そして少し前に導入された第1主題への対主題がソロヴィオラによって第1主題に重ね合わされ、第1主題に影がまとわりついたような深い印象を与えることに成功している。その後和声的推移によって一度クライマックスを形成し、第2主題による展開部に移る。
・ここまでを振り返ると、導入から第1主題が登場し、これがソロチェロから弦楽器総奏に至り、さらに管と弦の応答に対旋律が加わって豊かさを獲得するという、単純なものから複雑なものに派生していく様子が綺麗な書法で描かれているわけだ。まったく無駄がない。

第2主題による展開部(259-289)

・ソロヴィオラの修飾の中、初め弦楽器で単純なかたちで第2主題が登場し、ついで管楽器によって対位的に第2主題が引き継がれる。その後275小節から再現部への推移を兼ねた展開部全体のクライマックスが形成され、第1主題冒頭3音の印象を何度も提示しつつ、中空に放り投げるようにゲネラルパウゼで休止が入り・・・。

再現部(全体終結部)

再現部にハロルド主題を織り込むことによって、[提示部→再現部]の枠組みと[序奏部→終止部]の枠組みを持たせるという、序奏付きソナタ形式の拡張を行なうと共に、提示部では協奏曲的な扱いだったヴィオラを交響曲的書法の中に収めることによって、ハロルドの魂が外界(豊かな自然)と精神的に協調したことを表現している。

以下執筆途絶

第1主題再現部分(290-)
→同時にコーダ突入
ハロルド主題導入と同時に第2主題再現部分(323-)
ハロルド主題と第1主題の絡み合い(352-)
繰り返し(398-)
第2主題にもとづく終止主題(438-)
第1主題にもとづく終止主題(466-)

2007/2/1

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