シューマン 交響曲第4番 第4楽章

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導入(1-16)d moll

・「Langsam」つまりドイツ語で「ゆっくり」の序奏の中に、第1楽章の第1主題動機が登場。2,3楽章も使用していれば、循環動機になったはずだが、シューマンはその遣り方は採用せず、動機の統合法ではなく同じ楽句を異なる楽章で共通しようすることによって楽章間の絆を深めてきたことはこれまでに見たとおりだ。それに対して、最終楽章は1楽章に強く結びつけられていて、第1楽章の第1主題冒頭動機xを使用することによって、動機的な統合が果たされている。
・繰り返す動機xの中に、祈りと宗教的精神を感じさせるトロンボーンを中心とする金管のファンファーレが鳴らされ、これは2人の結婚式のファンファーレなのだろうか。だとすれば、第4楽章は、結ばれた祝祭的勝利そのものなのだろう。やがて細かい3連符の音型が木管群を中心に導入され、高まっていき提示部にはいる。

提示部(17-77)

第1主題提示部分(17-37)D dur

<<<確認のためだけの下手なmp3>>>
・第1楽章の展開部で、軍隊的闘争が高まっている121小節目に登場した(Ⅰ-Ⅳ2転-Ⅰ)のリズム動機yの後に動機xが付随するパターンが元になって、ここでは闘争が勝利に変えられ(D dur)の(Ⅰ-Ⅳ2転-Ⅰ)の和音的響きに動機xが付随する1小節が誕生する。それを繰り返しながら2小節目(18小節)では和音が「レーファファッソッラー」(ちょっと来なさい、君は本気で楽曲解析をしているのか!)の付点付き旋律に発展する。この付点付きのフレーズも動機として重要な役割を果たすので、これを動機zとする。この2小節がもう一度繰り返され、その後に動機zを使用しながら主題後半が形成されていくというのが第1主題(17-24)だ。
・調性的には初めの2小節を繰り返す時、(D dur)から遠い遠隔調(C dur)で行なうため、18小節目の属和音(A-C#-E)から、いきなり(C-E-G)が登場する辺り、主題そのものの中での大胆な調性プランは、古典派では見られなさそうなロマン派的方針だ。さらに21小節目からの主題後半では、通常2拍ごとに和音が変化すれば済みそうなところを、2拍目と4拍目も和声変化を組み込んで、直前の部分に比べて和声密度が高まり楽曲の変化と色彩の多様化によって主題クライマックスを形成する方針が取られている。
・もう一つだけおまけで加えておくと、22小節目後半でⅠ2転からⅤ和音にカデンツを踏んだ和声進行が、トニックに解決せずに、もう一度Ⅳ和音からカデンツの旅を始めるが、新しい遣り方ではないが、印象深い効果を出している。
・その後2小節間、動機zによって第1主題風の推移を開始すると、(h moll)に転調。27小節目から第1主題に対して息の長い推移旋律が登場し、伴奏が歌謡伴奏的になり1小節ごとに転調を重ね、これによって推移とする遣り方は、歌謡的旋律によって情景を変化させながら次に導くというシューベルト的な遣り方だ。(ただしこれはある特定の情感を表わすためにはプラスになるかも知れないが、純粋な動機による楽曲の構築密度からすると、古典派の巨匠達に比べて大いなる後退現象ではある。効果的だがルーズな推移とでも云えるか。)

第2主題部分(39-58)A dur

・第2主題(39-58)は第1楽章の76小節から始まる終止導入楽句と親しい関係にありそうだが、伴奏が8分音符の同音の刻みに変更され、基本的なラインは第1ヴァイオリンが弦楽器の伴奏に乗せて行なう。これに木管群が共に加わるが、初めはフルートとオーボエが主題を共に演奏するのが、次第に木管総奏に発展していく姿を見ることが出来る。一番少ない時でも初めからフルートとオーボエで始まってしまう、つまり常に管弦の混合の響きを楽曲全体の基本に置きたがるシューマンの特徴をよく表わしている。さらに木管の総奏は52小節目から掛け合いに変化して、オケの効果は緻密に考察されているのだから、オケの才能が無いなどとかってはいけない。
・一応構成を書いておくと、第2主題を形成する冒頭4小節(39-42)が変形されながら繰り返され8小節を形成。47小節からはその8小節がそれぞれ短縮され、つまり冒頭4小節の後半2小節と、その変形4小節の後半2小節が遭わせて4小節行なわれる。51小節からは冒頭1小節目の特徴的な音型を何度も繰り返して、再び55小節から冒頭4小節を回帰させる。よって[提示→中間→再現]という綺麗な形式で作曲されているが、初めの4小節分が圧縮されて、2小節単位、1小節単位となって、主題が再現されるプロポーションに感心して欲しい。

提示部終止部分(59-78)A dur

・59小節目から動機zのリズムを使用した和音連打による終止部分が始まり、これが67小節目から和声の響きの中での早い音階パッセージの繰り返しにいたり、最後に動機zを繰り返して提示部を終える。

展開部(78-114)

・第1楽章の展開部導入では(G dur)の主和音に対して(As)音という、機能和声進行に対して楔を打ち込むような音が展開の開始を告げたが、同じような遣り方で(A dur)に対して構成音の響きではない(G)音が単音で鳴らされ、次の小節で(h moll)の属9和音の響きが提示される。古典時代にもあったが、根音を含んだ完全な属9和音は展開部を告げる十分な異質性を持っている。この2小節がもう一度繰り返され、展開部への導入を果たしている。
・82小節から始まる真の展開部は、第1主題2小節目で誕生した付点化されたフレーズによって擬似的なフーガ導入を行なうことによって開始する。声部導入はチェロとファゴット、ビオラとオーボエ、第2ヴァイオリンとクラリネット、第1ヴァイオリンとフルートという順番で導入されるが、初めから管と弦を均質に扱っているのがシューマン的だ。真の対位法作品なら3小節の主題の後に次の声部が主題を開始したら、元の声部はそれぞれ同一の対旋律(類似のものでも良いのだが)を奏でていくものだが、この楽曲ではそもそも対旋律と呼べるほど独立した旋律を描いていないし、一貫して同じ進行も守られていない、いわばリズムと旋律風進行を持ったベースラインぐらいのものだ。したがってフーガ風導入ではあっても、むしろ目的は疑似ポリフォニーの導入によって動機zの繰り返しを導いて、続く94小節から動機zを楽器を変えてひたすら繰り返していく、反復の喜びに至る為のプロセスだったと見ることが出来る。そして結局大枠はこの動機zの繰り返しによって113小節までが形成される。
・楽曲構成上ユニークなことは、ここまでの動機zの展開部全体が、第1主題による展開部となって、これを再現部の第1主題に代えて、114小節目から第2主題へ向かう推移が開始してしまう点である。つまり古典派のソナータ形式では、展開の密度が高まり展開が持続しながら第1主題が再現しつつ、遂に第2主題の到来を待って完全な安定状態を向かえる作曲方法が見られたが、シューマンはその展開部と第1主題再現部の展開的傾向を見て取って、「じゃあまとめて展開部だけで良いじゃん」と思ったかどうだか、展開部が再現部の第1主題の代わりに置かれ第2主題に至るという形式を編み出したのだった。
[第1主題提示部分ー第2主題提示部分ー終止部分]
[展開部ー第2主題再現部分ー終止部分]
コーダ

再現部(114-167)やがてD dur

・第2主題へ向かう推移が提示部と同じフレーズで行なわれるが、ここでは1小節ごとに和音と休符で留められて、まだ展開部の様相が濃い。
・129小節から第2主題が、ソナータ形式の定型通り(D dur)で再現。終止まで同様に進行する。

コーダ(168-336)D dur

・再び展開部への導入推移が登場してコーダに至る。第1の部分(168-187)では、27小節から始まった推移旋律から派生したコーダ旋律と、直前の再現部終止の音階上行パッセージの部分が交替で繰り返す。
・188小節から速度が速くなって(Schneller)、やはり27小節から始まった推移旋律を元にした祝祭的な終止フレーズが繰り返されつつ終止を高める第2の部分が形成される。
・このコーダのクライマックスの持ち上げはさらに続き、231小節からは更に速度を速め(Presto)の指示で、音階上行に始まる順次進行フレーズを快速にフゲッタ風に導入しながら一気に盛り上げ、最後に祝祭的な終止フレーズが再度登場しながら大円団を向かえるのだった。もちろん和声的にはキーワードのⅠとⅣ2転の交替が使用され、楽曲を閉じるのは、非常に理に適っている。

2006/11/2
2006/11/06改訂

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