シューマン 交響曲第4番 ニ短調

シューマン 交響曲第4番 ニ短調 op120 (1841年/改訂1851-52年)

概説
 例の管弦楽の年1841年に作曲されたニ短調の交響曲は、自身の日記に「次の交響曲は『クララ』と呼ばれるでしょう。フルート、オーボエ、ハープで、彼女の肖像画を描くのです。」と記してあるそうだが、9月9日に完成して9月13日には妻クララへの誕生日祝いに贈られ、その冒頭の主題はクララの考えた旋律だとか、なんとかかんとか。とにかく12月6日にフェルディナント・ダーフィト指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウスオーケストラの演奏で初演された。
 ところがこの演奏会はフランツ・リストと妻のクララによる連弾ピアノ演奏が聴衆の関心をかっさらったとも言われ、あまり評価が高まらなかったらしい。結局何か作曲に不満があったのか、再演も目論まず、初稿版は人目に触れず10年あまり眠り続けたのである。ただし「作品としては1番にも劣らない」というような記述もあるから、否定すべき理由があったとは言い切れないが、とにかくこの曲は永い眠りについた。
 ところがフェルディナント・ヒラーの招待によって、デュッセルドルフの音楽監督に就任した後、交響曲第3番ラインを作曲した彼だったが、その初演も1851年2月に済んだ後、12月12日になって「昔の2番目の交響曲の再オーケストレーションを始めた」とシューマンは書き記している。音楽監督の職務と関連して、オーケストラ作品の需要があった為か、己の芸術的閃きが改訂を欲したのか、まさか偶然思い出した訳ではないだろうが、再編成を目論んだのである。
 あるいは、交響曲第3番の1楽章に、どう聞いてもすぐに第4番交響曲を思い起こすフレーズが使用されていることから、私は3番の該当箇所を佐曲することによって、第4番が長い間眠りについて居ることを思い起こし、そしてそれを救済する使命を再認識したのではないかとも考える。
 これは実際はオーケストレーションだけでなく、構成の補強や統制を高める変更が加えられ、特に最重要動機を導くための序奏の導入や、不要な動機の抹消などは、主要動機によるドラマ性を追求したシューマンの作曲の足跡をよく表わしている。
 ただ、1本だった楽器を重複させ重厚で統一された響きを導くなど、オーケストレーションの変更こそが、彼にとって最重要かつ決定的な要素だったのだろう。ついでに速度記号も変更され、この際イタリア語の表記をナショナリズムの高まりに合わせるようにドイツ語に変更している。おまけに改訂された作品に最初は「交響的幻想曲」という名称を与えようとしていたことが、ヨーゼフ・ヨアヒムに贈られた改訂自筆スコアの表紙から分かるそうだ。おそらく他楽章の楽句を次の楽章に持ち込んだり、特に1楽章と4楽章の動機関連を強めたために、連続的な幻想曲の心持ちがしてきたのだろう。
 彼はまだ悩んでいた、1852年の初めにはパート譜を作成したのに、上演を行なわず、彼の残した文章類からも曲の事について語られず、なぜが12月に唐突に4手連弾版などを完成させてみたりしている。ただ上演のタイミングが無かっただけかも知れないが、あるいはこの曲はよっぽど、彼の本性に触れるものなのかも知れない。芸術家というものは、しばしば、自分に近すぎる傑作に同体しすぎて、本当に優れた作品なのか判断するすべを無くして途方に暮れるものである。(ホンマかいな。)
 ようやくこの改訂版は1853年3月3日に、コンスタンティーノポリス陥落400周年を追悼して(あう、嘘です、そんな記念があってたまるか)、作曲者自身の指揮で初演され、成功を収めたことが彼の記述「ニ短調交響曲とその喜び」から分かるそうだ。
 シューマンの死後、41年度版の自筆譜をクララから預かったブラームスが、初稿版の方が優れていると叫んで、1889年に初稿版を演奏させることに成功。ケルンでヴュルナーの指揮で久しぶりの再演がなされた。調子の出てきたブラームスは、ヴュルナーに初稿の校訂を依頼し、中途半端に首を突っ込んだ挙げ句、オーケストレーションにだけは51年度版の精神も織り込んだ、中途半端な初稿版(正しくはヴュルナー版)が登場し、シューマン全集の付録として出版されたのだという。
 さらに完全な初稿版の手書き楽譜を見ると、2楽章に、音符は書き込まれなかった無音のギターパートがあり、3楽章の始めにはファンファーレが記入されて、後になってから破棄されていたり、いろいろ面白い発見があるのだそうだ。
初演と出版
……初演は上記。初演の後すぐにブライトコプフ&ヘルテル社に売却し出版を目指すが、手紙の遣り取りでシューマンが第2番交響曲の扱いを望んでいたらしいことが分かるものの、結局翌54年に「交響曲第4番op120」として出版された。
楽器編成
……フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部
演奏時間
ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル(1963)
第1楽章(11:29)
第2楽章(4:48)
第3楽章(5:52)
第4楽章(7:25)

各楽章の楽曲解析

第1楽章
ソナタアレグロ形式
d moll、3/4拍子→2/4拍子
Ziemlich langsam→Lebhaft
(かなり遅く→いきいきと)
第2楽章
Romanze(ロマンツェ)
a moll→D dur、3/4拍子
Ziemlich langsam(かなり遅く)
第3楽章
Scherzo
d moll、3/4拍子
Lebhaft(いきいきと)
第4楽章
d moll→D dur、4/4拍子
Langsam→Lebhaft→Schneller→Presto
(遅く→いきいきと→速く→快速に)

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