2018年 Tokino工房新春大和歌会
2018年が開けて、正月二日。それぞれ家庭での祝いを済ませ、工房の大和歌の詠み会に、渡歩(わたり)、いつもの彼方、時乃遙、時乃旅人の四人が集う。年賀の挨拶を行い、会の説明と無駄話をするうちに、早午前は過ぎ、昼食には、少しく豪華な海鮮鍋に餅を加え、正月料理を兼ねてみる。ようやく改めて、開会の辞を述べたのは、午後二時を告げた頃であった。
今日は、題詠による発句と和歌。発句を基本にして題を定め、和歌を詠む場合は、はじめに三十一字(みそひともじ)を宣言する。新年らしく、習字のたしなみのある渡歩がこれを懐紙(かいし)に記し、まとめて工房の神棚に奉納し、それぞれの歌の上達と、ありきたりな幸せを、いにしえの歌神に祈る。いつしかあたりも暗くなったので、夕食には鮨などを楽しんで、ようやく解散したのは、かささぎの橋に、霜降るほどの時間になっていた。
十八の
新たな旅の 始まりを
告げます春よ どうぞろしく
管理人記す
題詠
歳の市
端末に歳のものまで済ませ顔
時乃旅人
お買いものしないではしゃぐ歳の市
時乃遥
財布見ろや歳のもんくらいまけやがれ
いつもの彼方
暮近き果物市や箱みかん
渡歩(わたり)
大掃除
反古捨てる気力も褪せて年の果
渡歩
年に一度の俺が掃除だ舞埃(まいぼこり)
いつもの彼方
「問い」
大掃除仕掛け人形バネ尽きて
時乃旅人
「答え」
ひとゝせのほこりまみれに壺割れる
時乃遥
年の瀬
年の瀬にさいふの紙をもてあそび
時乃旅人
前厄の年を渡るぜだらだらと
いつもの彼方
塩飴を舌に転ばし年湊(としみなと)
渡歩
せめてものこと選びます大晦日
時乃遥
暮の宵
年が終わる夕日にお前の名を叫ぶ
いつもの彼方
なぜ鳴くのからすは答えず宵の暮
時乃遥
年寄れば相も変わらぬ夕べ哉
渡歩
ひとだまのさ青なりしか暮の墓所
時乃旅人
年越蕎麦
年越しのそば分け分けなあなたかな
時乃遥
箸置いて君のそばして越す年は……
時乃旅人
「けっ俺様はひとりで食うぜ」
ダシがねえ醤油ぶっかけみそか蕎麦
いつもの彼方
「二人程の元気は無けれど」
打ち損じ手討ちのがれぬ晦日蕎麦
渡歩
年末の動物
猫の耳暮に立ちてはそと遊
渡歩
明日からは呼び名変えるぜねずみども
いつもの彼方
来る年のしまつ残りを犬の餌
時乃旅人
年の瀬にせわしく羽ねる小鳥たち
時乃遙
除夜の鐘
歌いきった俺を清める鐘が鳴る
いつもの彼方
いやなことけがれも除夜の鐘に消え
時乃遙
去りの句をあきらめ付かず除夜の鐘
渡歩
すばる星ひときわ揺れて鐘の音
時乃旅人
年の瀬の和歌
俺さまの
むなしく眺めた 雪空も
ふられた雲も 年の終わり日
いつもの彼方
ゆび先は
年瀬の君の あとしまつ
おもかげを消す 端末に似て
時乃遥
年瀬川
明け待ち渡る かさゝぎの
降らせる霜を 神に任せて
渡歩
渡る瀬に
祀るこよみの みやしろに
神の御代より 天つかゞり火
時乃旅人
初日の出
しのゝめをあらため鶏の誇らしさ
時乃遥
俺の情熱(ひ)に祈られまくれ初日の出
いつもの彼方
眠たげな犬をせかして初日かも
時乃旅人
幾たびか見納めそびれ初日影
渡歩
初春の和歌
「まずは我より」
喜びも
悲しみもゆく 初空を
また眺めして 古びゆく我
渡歩
「けっ情熱が足りねえぜ」
新春だぜ
飾り太鼓を 打ち鳴らし
ライブをするぜ 俺さまの歌
いつもの彼方
「そんな歌が認められますよう」
初空へ
紙飛行機を 放り投げ
叶えてみたいな あこがれの夢
時乃旅人
「ささいな夢は恋人に似て」
初風です
朝におはようございます
君に届けと
さゝやきにして
時乃遙
年賀
あけおめな
大好きなんて 気障っぽく
素っ気なくして ツンデレくらいな
時乃遥
年明けて
あけおめことよろ 歌い出す
鶏より俺の 奏でるメロディー
いつでも彼方
ほうらい山
玉のせ海老の 伊勢まゐり
見果てぬ軸の 夢舞台して
渡歩
「やれやれ皆さん相変わらずですね」
うれしいこと
かなしいことも あったけど
またあらたまる 今年もよろしく
時乃旅人
初詣
寺跡の鳥居くゞりて初参
渡歩
まぶだちの襟に金投げ初詣
いつかの彼方
「問い」
初詣あなたとちょっと口げんか
時乃遥
「答え」
なかなおり初おみくじは末の吉
時乃旅人
初夢
初夢は夕べの夢の繰り返し
時乃旅人
初夢で空飛ぶ犬にかじられて
いつまで彼方
亡き影と初夢語り明かしけり
渡歩
たそがれにもたれるような二日夢
時乃遙
「和歌も出来たぜ」
天空の
城を崩して 囚われの
夢をばらまく 俺の初夢
いつしか彼方
「それは狂歌では?」
クラスメイト
初夢がたり はしゃぎして
ポテチつまんで 恋のお話
時乃遙
初物
初鳴の猫あらたまるしっぽかも
時乃遙
せがまれて孫の手引て初笑
渡歩
半袖でいってみせるぜ初走
いつもの彼方
おとなりの初音の琴を聞きながら
時乃旅人
正月料理
「こんなのもありかな」
鯛の腹に豆詰め込んで初なます
時乃旅人
「ひねりすぎだひねりすぎ」
胸を叩く餅の雑煮に溺れたぜ
いつもの彼方
「二人とも堕落しましたね」
投げやりな句でまたつまむおせちかな
時乃遥
「真面目に返して」
重箱のおせちの人も遺影かな
渡歩
四分儀座流星群
風邪引くぜお前と四分儀の流れ星
いつもの彼方
四分儀の御空の人よゝばひ星
渡歩
君の名をそっと四分儀のながれ星
時乃旅人
四分儀の星は流れて君の妻
時乃遙