新春自由連歌会
五日に再び集まり、新春の連歌を工房の神棚に奉納する。発句は主宰の時乃旅人が行い、年長者の渡歩が脇(わき)を付ける。ひと巡りの後は、早い者からではなく、思いついた者の句をいくつか並べ、若干の話し合いの後に、多数決で次の句を決めていくという、少人数ならではの、のどかなスタイルで進行。もちろん、句の出来だけでなく、四人のバランスも考慮に入れる。
あいだに会食と喫茶をたしなみ、正月ならでは、なかなかのにぎわいで夕暮の解散となる。懐紙への書き込みは、字のたしなみのある渡歩が行い、遙はいくつかの手料理を披露。なにもしない彼方には、せめてものお茶係をやらせ、式は旅人が整えた。
即席式目
歌仙(かせん)にあやかり三十六句とするが、古来の式目(しきもく)、去嫌(さりきらい)や定座(じょうざ)などに縛られない、自由な連歌とする。時期は、あまり拘泥せず、年末年始を緩やかに移行するくらいのもの。むしろなるべく、どの句にも季語がこもるように試みるが、これは絶対ではない。一応、どこかに「月」と「花」を入れることを決まりとするが、これも定位置は設けない。はじめの四句は順に始めるが、後は順不同。ただし四人なので、偏らないように執り行う。
[一]
もぎたての柚子浮かべては湯治客
旅人
[二]
寒し/\と番頭(ばんとう)の声
渡歩
[三]
禿かけの冬にかつらを盗まれて
彼方
[四]
あらたな年のだるまさんかも
遥
[五]
日めくりの落書表紙はボールペン
旅人
[六]
掃除もしねえ賭けの○×
彼方
[七]
年の瀬の我が子の胸は他人哉
渡歩
[八]
彼氏彼女(かれかの)事情よりも不可解
遥
[九]
もつれあう毛糸の玉のクリスマス
旅人
[十]
炬燵の三毛は知らぬふりかも
渡歩
[十一]
あなたの愚痴を聞くことさえも冬の月
遥
[十二]
年の終わりのあきらめに似て
旅人
[十三]
俺は叫ぶ冷たく過ぎる弾きがたり
彼方
[十四]
老いたる冬の犬の遠吠
渡歩
[十五]
ほこらしく空を清めて除夜の鐘
遥
[十六]
夢幻の月は煌々として
旅人
[十七]
梅の花莟の枝のあこがれに
渡歩
[十八]
灰を投げ込むとなり爺いめ
彼方
[十九]
かわいがる御墓の犬よ年まつり
遥
[二十]
咲き染(し)む頃の花や面影
渡歩
[二十一]
宿着して初日の影を踏み歩き
旅人
[二十二]
小鳥にそっとおめでとうする
遥
[二十三]
食い飽きたおせち残りの豆投げて
彼方
[二十四]
年神祝う庭の片隅
渡歩
[二十五]
子猫たち群れ遊びます初声よ
遥
[二十六]
まぼろしに聞くみの虫の唄
旅人
[二十七]
凧揚に夕べの子らは母慕い
渡歩
[二十八]
寒さも溶ける三日月の笑み
遥
[二十九]
冬に喰う風呂でアイスの窓びらき
彼方
[三十]
手招きするは雪の亡霊
旅人
[三十一]
踏み惑う凍ての越路に靴ずれて
渡歩
[三十二]
求道の僧か初春(はる)の掛け軸
旅人
[三十三]
ほうらいの山のぼりつめた海老の先
遥
[三十四]
きっと叶うぜでっかい初夢
彼方
[三十五]
人はみな年瀬を渡す旅の人
旅人
[三十六]
花のあこがれ詩(うた)にとゞめて
遥
後書
二日に渡る、新年を告げる人らしき遊び。移り変わる世と寄る年波、それから人の心と、さまざまな試練に脅かされながら、変わることなく奏でられたらと、静かに願いながら……楽しかった集いに、別れを惜しむように、わずかな後書を加え、ここに筆を置くばかり。またの集いを、そっと夢見ながら。
あまたゝび
川瀬の年の 渡りして
去りゆく空へ かへるものかは
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