2018年新春大和歌会(後編)

新春自由連歌会

 五日に再び集まり、新春の連歌を工房の神棚に奉納する。発句は主宰の時乃旅人が行い、年長者の渡歩が脇(わき)を付ける。ひと巡りの後は、早い者からではなく、思いついた者の句をいくつか並べ、若干の話し合いの後に、多数決で次の句を決めていくという、少人数ならではの、のどかなスタイルで進行。もちろん、句の出来だけでなく、四人のバランスも考慮に入れる。

 あいだに会食と喫茶をたしなみ、正月ならでは、なかなかのにぎわいで夕暮の解散となる。懐紙への書き込みは、字のたしなみのある渡歩が行い、遙はいくつかの手料理を披露。なにもしない彼方には、せめてものお茶係をやらせ、式は旅人が整えた。

即席式目

 歌仙(かせん)にあやかり三十六句とするが、古来の式目(しきもく)、去嫌(さりきらい)や定座(じょうざ)などに縛られない、自由な連歌とする。時期は、あまり拘泥せず、年末年始を緩やかに移行するくらいのもの。むしろなるべく、どの句にも季語がこもるように試みるが、これは絶対ではない。一応、どこかに「月」と「花」を入れることを決まりとするが、これも定位置は設けない。はじめの四句は順に始めるが、後は順不同。ただし四人なので、偏らないように執り行う。

    [一]
もぎたての柚子浮かべては湯治客
          旅人

    [二]
寒し/\と番頭(ばんとう)の声
          渡歩

    [三]
禿かけの冬にかつらを盗まれて
          彼方

    [四]
あらたな年のだるまさんかも
          遥

    [五]
日めくりの落書表紙はボールペン
          旅人

    [六]
掃除もしねえ賭けの○×
          彼方

    [七]
年の瀬の我が子の胸は他人哉
          渡歩

    [八]
彼氏彼女(かれかの)事情よりも不可解
          遥

    [九]
もつれあう毛糸の玉のクリスマス
          旅人

    [十]
炬燵の三毛は知らぬふりかも
          渡歩

    [十一]
あなたの愚痴を聞くことさえも冬の月
          遥

    [十二]
年の終わりのあきらめに似て
          旅人

    [十三]
俺は叫ぶ冷たく過ぎる弾きがたり
          彼方

    [十四]
老いたる冬の犬の遠吠
          渡歩

    [十五]
ほこらしく空を清めて除夜の鐘
          遥

    [十六]
夢幻の月は煌々として
          旅人

    [十七]
梅の花莟の枝のあこがれに
          渡歩

    [十八]
灰を投げ込むとなり爺いめ
          彼方

    [十九]
かわいがる御墓の犬よ年まつり
          遥

    [二十]
咲き染(し)む頃の花や面影
          渡歩

    [二十一]
宿着して初日の影を踏み歩き
          旅人

    [二十二]
小鳥にそっとおめでとうする
          遥

    [二十三]
食い飽きたおせち残りの豆投げて
          彼方

    [二十四]
年神祝う庭の片隅
          渡歩

    [二十五]
子猫たち群れ遊びます初声よ
          遥

    [二十六]
まぼろしに聞くみの虫の唄
          旅人

    [二十七]
凧揚に夕べの子らは母慕い
          渡歩

    [二十八]
寒さも溶ける三日月の笑み
          遥

    [二十九]
冬に喰う風呂でアイスの窓びらき
          彼方

    [三十]
手招きするは雪の亡霊
          旅人

    [三十一]
踏み惑う凍ての越路に靴ずれて
          渡歩

    [三十二]
求道の僧か初春(はる)の掛け軸
          旅人

    [三十三]
ほうらいの山のぼりつめた海老の先
          遥

    [三十四]
きっと叶うぜでっかい初夢
          彼方

    [三十五]
人はみな年瀬を渡す旅の人
          旅人

    [三十六]
花のあこがれ詩(うた)にとゞめて
          遥

後書

 二日に渡る、新年を告げる人らしき遊び。移り変わる世と寄る年波、それから人の心と、さまざまな試練に脅かされながら、変わることなく奏でられたらと、静かに願いながら……楽しかった集いに、別れを惜しむように、わずかな後書を加え、ここに筆を置くばかり。またの集いを、そっと夢見ながら。

あまたゝび
  川瀬の年の 渡りして
    去りゆく空へ かへるものかは
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