幾つかの落書
砂に書いた
あいあい傘した 君の名は
波にさらわれ 恋にたゆたう
砂に寄せる
たわむれみたいな 無邪気さに
消されてみたいな けがれたこゝろを
ま白にそ
広がりまくる 銀世界
それが遊びの すべてなのにね
「捨て犬」
雪にまみれ
シアワセソウナ 寝顔して
小箱に 生まれたてのすがたで
バルドラの
野原まつりの 村々を
かがりともして りんどうの唄
おぼつかな
酔いどれ熊を 足蹴にて
いびり殺すや 符号らの群
羅列の真理
Ⅰ
まっとうな
言語の担い手 君たちの
おどけてはやす 僕の羅列を……
あきらめに笑う
ピエロみたいにして
それでも信じている
仲間など存在しなくても……
僕の羅列の彼方に
きっと真理があるのだって
Ⅱ
五万の心理学者が
あるいは定理主義者が
符号ともつれ合って笑います
いびつに歪んだまぼろしと
安らかに生きたいなら
彼らの表現の範疇に
所属していなければならないと
ソムナンビュリストでさえも
わたしを諭したものでしたが
幸せに暮したいなら
奴らの精神の片鱗に
触れていなければならないと
祈りの神でさえ
なだめたように思われましたが
今さらどうでもよいことです。
私はもう神もあなたも信じません。
すべてをまぼろしと呪いながら、
それでも消え去らないもの、
そのひとかけらの雫を
真理と掲げて生きていく
誰もいない人の世の終末を
さ迷うみたいに
さみしく生きていこうと
せめても静かに願うのでした
Ⅲ
けれどもそれもしばらくのこと
パチンとはじけたしゃぼんみたいに
思いもろともはじけた私は
彼方の空へ消えるでしょう
ただ羅列だけが残されて
けれども眺める人さえいなくって
まるで散らばる枯れ葉みたいに
拾われるのを待っているようでしたが
それさえやがて消え果てて
僕のすべては、悲しみも喜びも
倫理も定理も、存在した事実さえも
ゼロに書き換えられてゆくのでした
羅列もろともに忘れられてしまうのでした
そうしてもはや私の知り得なくなった
有機物やら無機物やらの
定義すら消え失せた宇宙には
せいせいしたという感慨すらなくなって
ただ素粒子の祭やら
ニュートリノの幻やらの
はかない影絵が繰り広げられて
無様な英知などの図書館とやらの
覚書もまた羅列と
一緒になって消されてしまうなら
ああ、さっぱりした
さっぱりした
掃きだめに捨てられた落書を
焼き尽くしたような愉快です。
あるいはそれが神様の示した
たったひとつの真理なのかも知れません。
あるいはまたそうでなく
人の世の逸脱者が生みなした
ロマンチックな誤謬なのかも
知れませんね。