「東の神様」

東の神様

南の果の神様は
焦げつく太陽のようでした
暑く厳しく猛っては
災害を与えたりはしたけれど

南の果の神様を
皆は信じて祈るのです
何も叶えてくれなくても
他力本願と呼ばれても

南の果の神様は
我こそすべてとはしゃぎます
焼け付くほどに太陽は
恵みとなって帰るでしょう

西の果した神様は
月の悟りのようでした
小賢しいものを糾弾しては
知性を罵りもしたけれど

西の果した神様を
誰もが聖者と称えます
賛美歌ほどの夜は明けて
新たな明日へと返すでしょう

西の果した神様は
まことの影と自尊します
あまねく差し込む月影は
闇の夜さえも照らすでしょう

北の果では神様は
流れる星のようでした
切り裂く閃光の冷たさに
ひれ伏せたりもしたけれど

北の果では神様を
人は希望と祈ります
凍えるほどのさみしさも
凍てつくようなかなしみも

北の果てでは神様は
己(おの)が定めとほこります
星降る夜はオーロラの
幻想となって包むでしょう

東の果には神様は
いつしかいなくなりました
信じる人の願いだけが
存在の核心だったから

(それは偉いものどころか
存続さえもあやういようなもの
たなごころ、あたためきれなければ
粉雪《こゆき》の溶けて消えてしまうものだったのに)

東の果てには神様を
求める人さえありません
めくるめくような快楽に
情緒をあそぶばかりです

東の果てには神様を
信じるものさえさげすまれ
不幸も不満も人々は
誰かをののしるばかりです

そうしていつしか神様は
砂のこぼれてさらさらと
波にさらわれわたつみの
泡沫となって消えました

ですから東の果てには神様は
いつしか消えて誰もが皆
黄金色した価値だけを
あくせく求めているばかり

東の果には神様は
いつしかいなくなりました
信じる人が消えたから
粉雪の溶けて消えました