あなたに旗を振りましょう

一筆書の詩

 2017年6月21日に、酒を友に一気に落書きしたまま放置されていたもの。テキスト整理のため、今頃ちょっと推敲して掲載。P.S.も当時のもの。

あなたに旗を振りましょう

雨が降ったら痛かろな
風が吹いたら寒かろな
冷たい言葉に打たれたら
生きているのもつらかろな

人のいのちは善良などと
いつわりを述べたのは誰でしょう
どこへ行っても土砂降りの
冷たい雨に打たれては

誰ともはぐれて眺めれば
お化けみたいな姿して
群がるみたいなヒツジより
穢れた粘土いびつして

笑いを餌にさまよい歩き
情緒をむさぼる快楽に
どっぷり浸ったなみだに溺れ
同一規格のコンプレックスに

ゆがんだいびつな形して
同じ列車にスーツして
端末を友に通います
人で亡くした蟻の群れ

非現実した情緒して
ふれあう肌のいのちさえ
あざ笑いますたましいは
血の通わない独善に

群がるような慣習で
誰を愛した哀れんだと
規格倫理に酔いしれて
同族性した偽善の果てに

没個性的なアイデンティティ
補い付けた満足さえも
餌のどぎつい陶酔に
酔いしれただけの事なのに

わずかな個性は怖くって
それな言葉をめざとく見つけ
ののしりけなしさげすんで
あざ笑うピエロのようでした

『ピエロも人には違いなく
  軽蔑すべき何ものも無い
   不気味なジェスチャーのゆかいさよ
    デフォルメこの世の救世主
   卑下するものこそ悪なれば
  此の世より抹殺いたしませう』

軽蔑したのは彼でなく
  軽蔑したのは彼らです
    彼らは彼の切羽詰まった
  ひと言が自らを嘲笑した

与えられた規格倫理から
  外れたひと言が許せなくて
    自らをピエロとののしった
  レッテルで糾弾を始めたのでした

ああ、それはまるで
  一匹が歩むベクトルが正当性を勝ち得てしまうような
    同一規格の蟻の行列には過ぎないものを

これこそ蟻の個性を踏みにじった
  下劣なひと言には違いありませんと
    人類を代表したみたいに
  奴らは高らかに宣言するのでした

それはもはや
  哲学やら倫理を持ち出すまでも無いくらいの
 もっと不学の自由闊達な
   放置児童のなれの果てのたましいをしても

侮蔑にあふれる人でなしの
  規律でも倫理でも思想でも精神でも
    まるでない行列本能
  原始的な愛情ですらさらさらなく

群れ集ううちの安心の
  なれの果てから何も考えず
    行動できるように仕組まれた
  人工無能の選択肢には過ぎないものを

それならもはや、あなたはあなたで
  ある必要すらもはや、あなたにとってすら
    さらさらなくって漬りゆく快楽のままに
  同列であれば絶対安心の

けれども、それな定義をもし何十億の
  同胞よ、人の定義とするならば
    なるほど人であるなどの認識こそが
  はなから誤りには違いなく

動物としての本性からするならば
  あるべきなど問わずに均質的に
    となりと寄り添っていさえすれば
  それこそ人とするが正当で

小学生の足し算ほどの揺るぎない
  圧倒的な正当性を持って迎え入れられるであろう
    究極の人のあり方の絶対定義
  あるいはそうなのかも知れませんが……

そうしてそれが、何十億の同一個体の
  動物的定義の絶対性をあるいは
    保証するものなのかも知れませんが……

わたしはそれにあらがいます
  たとえそれが人の定義として
    あなたがた宇宙を保証するものだとしても

わたしはそれにあらがいます
  それはあなた方定義には違いなく
    たとえあなた方定義が同調心理の共鳴に
  どれほど酔いしれてこのわたしを

人でなしと定義したとしても
  また別のあなた方定義に基づいて
    快楽の仮想現実をおびやかすもの
  わたしを黙殺して生ける屍にしようとも

それはどこまでも
  あなた方宇宙の定理であって
    あなた方定義の人の基準には過ぎなくて
  わたしの定理にはならなくって

けれども唯一それこそが
  個性くらいじゃないですか
    わたしの定理でなかったら
  行列みなぎる正義など

見慣れた標語を誤認して
  集団と自らを同一化して
    与えられた安心に埋没して
  餌を求めるうちに見慣れた標語を

定理とはき違えてはばからない
  苦悩の果てに勝ち得た自らの
    意見でも意思でも倫理でも
  ない与えられたえせ定理

けれどもそれは
  あなた方宇宙の定理であって
    あなた方にとってそれが嗜好なら
  勝手にそれを振りかざして
    わたしを糾弾したら良いでしょう

わたしはあなたを罵ります
  たとえ殺されても罵ります
    そうしてわたし一人の定理に基づいて
  あなたを人でなしと命名します

それはもとより、殺されたいからではなく
  罵られたいからでも無く。かといって、
    あなたと同類であるという保証を、
  認められなかった腹いせでもなくて

私はただ
  私の信じる心理に基づいて
    あなた方宇宙のいかさま定理などは
 その惨めな、単質の果ての色の違いを
   個性とはしゃぐ精神とやらは
     それでいて異質なものを排除する
  おぞましいほどの共通理念とやらは

全宇宙のあらゆる星間物質の
  存在意義からともなく演繹して
    (もとよりこれな失言に
   あなた方はたちまちはしゃぎます
    存在に意義などないと勝ちどきです)

それな人でなしの定義して
  拍手喝采する仲間にはなれません
    終末定義は崩れ果て
      残されるもの嫌悪感

それな情緒に尽きるとしても
  わたしはそれにあらがうもの
    わずか一惑星の同胞の
  なれの果てを定理と信じるような

浅はかな矮小を突き詰めて
  帰納したとかいう蟻の巣の定理とやらを
    信じて誰かを糾弾できる程度のもの

それなたましいをわたしは
  人とは定義したくはありません
    あなた方宇宙倫理を人の心理とは
 私は定義したくはありません
   ステレオタイプに染まりゆく

規格の果にAIを恐れるほどの
  独自なものが存在するなどとは
    どう好意的に捉えても見いだせず
  ただあなた方ほり振るい出されたひたむきな

人でなしの烙印を押された
  さみしく生きるあるいは誰か一人ぼっちの
    けれども彼ら倫理とは異なる個人であり続ける
  地獄に苦しむ本当の人がどこかにいるとしたら

わたしはただ、あなたの為に歌うでしょう
  彼らすべてを敵とみなして歌うでしょう
    もとより彼らはわたしを敵とは
  見なすほどのこともなくはじめから

見向きもせずに過ぎるでしょう
  蟻の規格とは異なるもの
    それは嘲笑の贄にするか
 あるいは興味のないもの、黙殺するか
   どちらにしても人と人との

関係にはならず、すなわちわたしは過ぎ去られ
  断末魔のひと言さえも
    砂にさらわれて消えるでしょう

それでもあなたがもし一人きり
  窓際に広がる町なみのあるいは
    原始的な不気味さにさみしくおびえたり

本当はこんなものが人の世では
  ないのだと涙する……
 そんなかなしみに打ちひしがれるなら

わたしは穢れた声して歌うでしょう
  だた、あなたの為だけに
    他のみんなが罵っても構わない
  ただ、あなたの為に歌いましょう

そうして、あなたとわたし二人して
  歩んでいけたら本当の
    それが人の命だと思います
  思いますけれども今はもはや……

わたしは寄り添っては歩きません
  歩くだけの元気はありません
    あなたを励ますよりずっと前に
  わたしは小さなたましいを

励ますすべを忘れてしまったから
  ただ遠くから祈ります
    あなたがひたむきにすべからく
 人であったならそれだけで
   もしたった一人であったとしても

それは、あなたにとって幸いであると
  もとより、あなたにとってわたしの
    落書きなどになぐさめを
  見いだせるものではないことも

わたしは、わたしの経験から
  よく分ってはいるけれど
    それでも何も無いよりは
 まだしもマシであることも今ならば
   わたしも少しは分っているはずだから

あなたに旗を振りましょう
  わたしの旗を高らかにして
    それは彼らの偽善に似てはいるけれど
  きっとまったく違うもの

あなたに旗を振りましょう
  精一杯のわたしの旗はきっと
    あなたに振ると見せかけて
  わたしを励ますものだから

その枠組みはまったく彼らの
  精神状態と同一ではあるけれど
    わたしはそれを蟻の精神とは
  定義しませんわたしの定義は

あなたに旗を振りましょう
  精一杯のわたしの旗はきっと
    わたしを励ますとみせかけて
  本当はたった一人のあなたのことを

救ってあげたいのに救えない
  断末魔のひと声にも似た切実な
    ものだとわたしは知っているから

あなたに旗を振りましょう
  あとはあなたが決めればいい
    わたしの旗をイミテーションと

罵りたければそれでいい
  知らぬ振りでもいいけれど
    もしわたしのみすぼらしい旗に

救われる人がいたならば
  わたしはあなたのために旗を振る
    その生きがいが最後の命なのだと

ただ信じているのです
  ただ信じて旗を振りましょう

P.S.

  久しぶりに、アルコールを加えて、キーボードが走るのは、彼の霊感において、アルコールのはたす役割を、つぶさに証明して見せたようなものであった。