僕らのヒーロー

僕らのヒーロー

もう歌えなくなった彼の亡骸を
  蟻ども群がるようにつかみ取って
 まるでヒーローの葬儀でも見せるみたいに
   長い行列をして運んでゆくのでした。

   「彼こそ我々の咎を諭すべく
     天より使わされたけがれなき魂である」

        「すばらしき彼の歌声は
           常に我らの道しるべであった」

  「そうだこれまでも、これからも
     わたしたちは、常に彼の隣人であり
       親しき友であり、永久にかなたより
     見守られるべき我が同胞である」

これほどおぞましい茶番劇が
   ピエロのジェスチャーと奇声を張り上げて
      まるでメディアのかなたの道化師のように
 他者を愚弄することによってのみ
      拍手喝采を受ける芸達者たち

彼らのこよなく愛する
   行列の道しるべのような先導の
 ひたぶる道化の精神からまず発せられ

たちまちそれは蟻どもの
   行列の大合唱として鳴り渡るとき

キリ/”\スのひたむきな精神は
   死してなお嘲弄(ちょうろう)せられ
 そのたましいは穢され尽くして
    奈落の底へと叩き落とされるのだった

それはキリ/”\スの行為によって
  もたらされた帰結点では決してなく
    ただ神々の領域としての形而上世界が
  相対的なものにしか過ぎなかった
      それだけのことには過ぎないもので……

つまりは奴らのふくらませた
  圧倒的多数の妄想こそが正義であり
    神々の領域であり
  あらゆる判断基準のすべてには過ぎないものならば……

もはやキリ/”\スの
  そのたましいの野を駆け巡るような
    自由精神のめざすアルカディアなど

存在しないことになってしまうからには他ならなく
  認めるもなにもそこにはひとかどの意義すら存在しなく
    ただ彼は餌という価値観のあなぐらの中で
  静かにほふられて消えるのでした。

そうして蟻どもは、盛んにいつわり意義を打ち立てては
  ほふられた彼を偶像として称え
    「彼こそはけがれなきたましい、
       我々の真の同胞である」
  そんな涙を流しては、己に酔いしれることを
    単調すぎる日常の代償でもあるように
      快楽としての情緒をもてあそぶことを

それを、聖なるものとはき違えては
  (けれどもプラトニズムなど存在しなければ
     彼らにとってはそれが真実の意義には他ならなく
       あまつさえ彼らがすべてである世界となっては
     それが形而下の心理には他ならなく)
  同じ服をして、同じ行列で
    蟻どもは彼の死さえも、己のゆがんだ精神の代替物として

その精神を、おのおのが自分寄りはき違えては
  互いに対象物を観賞し合う、絶対的同心性の快楽に
    ふけっては朗らかに眠るのでした。

そうして夜が明ければ
  彼らはもはや食べ終えた餌のことなど
    忘れてはまた、新たな情緒的快楽と
  満腹感を満たすためのもの

新たな餌にターゲットを定めては
  全員一致で群がってゆくのでした。

そうしてあんなに心にしみた
  キリ/”\スの歌の精神は肉体もろともに
    どこにも存在しなかったことにさせられて
  天上世界からもまた消されてしまうのでした。

そうして彼の歌を知るものは
  どこにもいなくなりましたとさ、
    めでたし、
      めでたし。