夢による幾つかの変奏曲

全体構成

夢による幾つかの変奏曲
………ある文筆家を志した青年が、「夢」というキーワードをもとに、小説・詩・俳句・短歌・随筆・戯曲、およびその混淆を模索し、世に出ようとするが認められず、挫折の果てに消滅するまでの軌跡が、今では作品のみとなって残されたという趣旨。そのおおよそ一年間の執筆活動記録。
初めての方へ
………初めての方は、「こんぺいとうの唄」あたりがおすすめ。あとは「クロノスの秒針」あたりが面白いかもしれません。「ヒトヨミツル」は複数回聞いた頃に味が出るような文章に最適化されているので、なれないとしんどいものがあるかも知れません。
作成日時
………2009年の六月頃に『ヒトヨミツル』を執筆したのが契機となり、その後仕事を有給休暇にさぼりながら制作を続け、さらに貯金を崩しながら続け、2010年の三月に『後奏曲』のテキストが、四月はじめに『おぼろなみだの物語』『さよならの秋』のテキストが、中途で更新を停止していることから、そのあたりでバッテリーが切れたものと思われる。

上巻(かみつまき)

第一変奏 夢の序曲
………文筆家を目指したひとりの青年が、ある時、執筆中の自分の作品を「夢」という括りでまとめ上げようと思いつく。そんなある日の夕暮れどきの小さな宣言文を、何気ない散文にそっと込めながら序曲として仕立てたもの。
第二変奏 こんぺいとうの唄
………階層的な夢の物語の試み。執筆者の学生時代の回想に始まり、学生である彼が、勉強の合間に見た夢が主要部を形成する。夢のなかで彼は仲間からの疎外感を感じながらも、学園祭の準備のためにある書店へ向かう。すると書店には過去の本ばかりが置かれ、不思議な童話が並んでいるのだった。童話の内容は、過去に見た夢そのものであり、それを読み継いでいくと、その童話のなかの主人公はまた、童話のなかで夢を見るのだった。
 つまりは、夢のなかの自分が、読まれゆく童話の世界と実生活を行き来しつつ、さらに童話の中での主人公(幼い頃に見た夢のなかのわたし)が、物語のなかで夢と現実とを行き来している、というような階層的な夢を構成に持ち込んだもの。
 けれども実は、はぐれものの寂しがり屋さんが、恋人を探し出すような、たわいもない恋物語だったりする。
第三変奏 たったひとつの落書 (リンクは下題より)
………下方変位されたコメディの模索。諧謔主義と韜晦主義と言葉の冗談の混淆。ピエロチックな落書き三部作。

「夢の五段階説」
………一本道の線路を逃れきれないある労働者の夢見た、飛翔しきれない学生時代の面影を託した、コメディのふりをしたやりきれない夢の短編。

「七つの章の物語」
………言葉の巧みすぎたある学生の悲しいひとり遊び。

「怠惰の三楽章」
………三つの楽章で、解き明かせない「憂うのたましい」について煩悶するといった様相か。
第四変奏 ヒトヨミツル
………交通事故にあった、厭世的な青年が現世に開基するまでのお話。現実風なところから、謎の迷宮、(南国のある家、)南国の砂浜、南国のある家、南国の砂浜、南国のある家、南国の砂浜、謎の迷宮、現実と、厳密ではなく、おおざっぱなカイアズマス的な手法で作られている。さらに、ちょっと数象徴が使用されている。ただし文章が、中原中也の散文詩「或る心の一季節」的な傾向を示しているので、何度も噛みしめないと味が出てこないかも知れない。「私」と「僕」を高密度で変換させるのも、恐らく例を見ない。ような気がする。
第五変奏 夢によるさまざまな詩作(リンクは下題より)
「夢の季節」……夢による俳句50句
「夢見頃」……夢による短歌30首
「夢の翼」……夢による詩篇20
第六変奏 邯鄲の夢
………もう退職だって遠くはない中年の浩介が、仕事帰りから再び仕事に向かうまでの半日あまりを、さまざまな物語媒体が彼を取り囲みながら、彼自身は何をするでもなく、ただ悪夢にうなされ、自分の半生の意義を悲しく見つめ直すような作品。
第七変奏 夢十夜 (パラフレーズ)
………夏目漱石の夢十夜を、パラフレーズしたもの。いわゆる本歌取り的な作品とも言えるかもしれない。同質的なパラフレーズではなく、一作ごとに段階を変えようかとも思っている。

中巻(なかつまき)

第八変奏 コンチェルト
………ある音楽大学に通う青年が、小柄の女の子からヴァイオリンのピアノ伴奏を頼まれるうちに、かすかな思いを胸に抱いてしまう。それなのに、自分でははっきりと気づかないのだった。試験前の練習で合わせているとき、ちょっと居眠りをした青年は、夢のなかでまた、彼女の練習する姿を見かけた。また二人のおしゃべりが始まった。
第九変奏 澄みわたる湖
………携帯のベルが鳴って、母が父親の危篤を知らせてきた。青年は慌てて家を飛び出した、バスに飛び乗って、病院へ向かおうとするが、不思議なことに、バスはいつの間にか、見たこともないような所を走っているのだった。そうしてようやく降り立ったパラレルワールドで、青年は幼い日の自分と出会うのであった。
第十変奏 忘られし歌 (詩のページへ)
………中原中也の詩に影響を受けた詩人が、生み出した詩集。(初めと最後を差し替えて、夢へと統合する)
第十一変奏 クロノスの秒針
………ロックバンド「无型(むけい)」のボーカルである河東龍也。無能な上司「ウマザル」と怒鳴りあって、職場を去る決意を固める頃、生涯をかける決意をしていたバンドのメンバーが、空中分解の危機を迎えるのだった。一人でも歌い続けようとする主人公と、それぞれの挫折を胸にバンドを離れようとする仲間たちの物語。
第十二変奏 夢による小品集
………文体は能力に差がありすぎて真似出来っこないが、夏目漱石の「夢十夜」の古典的な凝縮された傑作を、十九世紀じみたロマン派的な解釈で拡大した、ルーズな形式による小品集。ただ夢という意味において統合される、個別ばらばらの物語に過ぎない。
第十三変奏 酔いどれの歌
………ある挫折し掛かった作家が酒を飲みながら見た夢らしい。主人公は作家本人らしいが、ヒロインは野菊らしい。個人的には気に入っているが、なにぶん声の数が多すぎるので、朗読は現在掲載されていない。
第十四変奏 間奏曲 (未掲載)
………写実主義あるいは、スケッチ主義によって、散文的妄想にかろうじて現実性を保ちながら、「夢の序曲」の頃よりは、幾分文筆の能力の向上と、それから精神的な挫折の傾向を強めつつある「夢変奏曲」の作者の、中間的な自己表明に基づく間奏曲。

下巻(しもつまき)

第十五変奏 ロミオとジュリエット
………シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を日本語に最適化したもの。翻訳ものだと逆立ちしても逃れきれないたどたどしさからの脱却を目指したもので、過去の遺産の踏襲と累積こそ文化的行為だと考える執筆者の意思表明でもあるのかもしれない。
第十六変奏 ノッコスタイル (未完成)
………仕事の淋しさを小説に逃れようとするある女性の、執筆した小説と現実世界の混淆の物語。(下書きのみ完成。)
第十七変奏 おぼろなみだの物語 (下書き作成中)
………ある大学生の、恋物語と、つかの間の別れを描いた、恋物語と俳句による三十シーン。
第十八変奏 さよならの秋 (未完成)
………ある女性の、長歌+短歌の三〇セットと詩
第十九変奏 夜更けのエチュード (朗読待ち)
………エッセイと和歌の三十セット。連なった小説風な部分も、散文詩的な部分もあるが、おおよそ、青年の幼き日の回想、現時点での問題である短歌と言葉について、それから彼女との失恋を経て、絶望との格闘といった構成になっている。これは後奏曲の前に置かれる。
第二十変奏 後奏曲(こうそうきょく) (未掲載)
………誰ひとり認めるもののなかった、作品を前に、自分の生涯を振り返った作家が、挫折の果てに消滅する。(これの下書きの完成を持って、とりあえず夢変奏曲は、集中作成を中止する予定。)

覚書

作品のプロット
・後半、恋の破綻。社会批判的混入。厭世増大など。
作品の覚書
・上巻は、俳句と短歌を統合して、代わりにもう一作投入した方が、中巻との量的バランスが取れる。(現在、上巻が原稿用紙換算で520枚)
・「クロノス」の、却下文章は破棄する。(うるさすぎ)
・「こんぺいとうの歌」の、星月夜はもとの意味を考え「月夜」にすべきか、あるいは「ゴッホの絵」よりそのままにすべきか。
・「やぱり」→「やっぱり」に直す。
・「邯鄲の夢」、「味方」が「見方」になっている。(三カ所修正)「初ガツオ」が直されていないままになっている。(ふられ日を、に修正)
・「ヒトヨミツル」の修正済み。
「だったけ」→「だったっけ」。[一]「叶えられるっていうんだ→カッコが閉じていない」。[六]の「流行りて」→「流行りたて」。[八]「右手の宙ぶらりんを」→「右手の宙ぶらりんを、」。
・「三十の和歌」→「三十の短歌」

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